ベトナムの多様な宗教観を知る
ベトナムは、「ドイモイ=経済開放政策」が広がりつつあるとはいえ社会主義共和国なので、信仰や宗教についてはあまりはっきりとはされていません。
けれど、社会主義に至るまでの長い間に培われてきた慣習や儀式は簡単には消えないもの、ドイモイにより信仰の分野でも開放政策が進むと、お寺や教会などが次々と復興しました。
ベトナムの多くの人は仏教徒、その次にカトリック教徒
もともとベトナムは54もの民族からなる多民族国家です。この54民族の中で多数派を占めるのがキン(越)族です。キン族の人々の多くは仏教徒(大乗仏教)とされています。
実際には仏教に儒教と道教(中国の民間宗教)が混ざり合っているようです。多くの人はお寺に参拝しますが、お寺によっては道教系の神様も祀られていますし、葬儀や法事などは儒教の儀式で行われるのが一般的です。
次に多いのがカトリック教です。16世紀に北部海岸地方で始まったカトリックはフランス統治時代に全国に広まり、今ではおよそ人口の1割はカトリック信者と考えられています。
厳格な社会主義の時代には、カトリックは前統治国フランスの宗教であったことなどから肩身の狭い思いをしていたそうですが、ドイモイによる開放政策に加え、現政権がカトリックの総本山バチカンと和解をしたことなどから、少しずつオープンになってきたようです。カトリック信者とはいえ、ベトナムに古くから伝わる儒教的な祖先崇拝などは、今でも多くの人が大切にしているそうです。
ベトナムの少数民族は宗教もさまざま
北部や南部に多く住む少数民族は、それぞれ信仰する宗教もさまざまです。山地少数民族の多くは独自の「精霊崇拝(アミニズム)」を持っています。それに中国から伝わった仏教や道教などがそれぞれ混然一体となって独自の宗教を信仰しています。
一方、南部のクメール族は、タイやミャンマーと同じ「上座部仏教(かつては小乗仏教と呼ばれていました)」を信仰する人が多いのが特徴です。また同じく南部のチャム族はヒンドゥー教や「パニ」と呼ばれるイスラム教を信じていいます。ヒンドゥー教やイスラム教は、都市に住むインド系住民も多く信仰しています。
また南部ではちょっと変わった宗教も知られています。仏教をルーツとしてブッダの化身とされる教祖が開いた「ホアハオ教」や、目玉をシンボルとして、仏教儒教はもちろん、キリスト教やイスラム教などあらゆる宗教の要素を取り入れ、さらにはトルストイやビクトル・ユーゴーといった文豪まで神とあがめる多神教です。そのちょっと不思議な感じとちょっと怖い感じから、総本山とされる寺院へ、ツアーなどで訪れてみる人が絶えません。ホーチミンからバスなら90分程度で行ける近さも、人気の一つです。
いろいろな宗教が混在するベトナムですが、人々の心のベースには、家の神様(かまどの神様)に祈り、村の守り神(ディン)を祀り、さらには神社(デン)へも参拝する、という日本の神道にも近い信仰心があるようです。神社(デン)に祀られているのは水の神様など自然の神々のほか、民族の英雄が祀られていたりもします。村のお寺では、これらのデンが併設されていたり、一緒に祀られていたりするそうです。