出雲大社からほど近い、松江しんじ湖温泉「なにわ一水」の勝谷有史社長は、「『病院のような部屋ではなく、誰もが泊まりたい宿を目指す』にこだわりました」とおっしゃいます。
全国に先駆けて2006年から宿のバリアフリー・ユニバーサルデザイン化に取り組み、少しずつ施設改修を重ねてきました。
なかでも露天風呂付和洋室201号室が特に素晴らしい。80インチの大型液晶テレビがあるリビング(防音壁が施工されているので大音量で視聴もOK)、多目的機能が備わっているトイレ、車いすのまま使用しやすい高さの洗面台。さらにデッキにある露天風呂からは湖が一望でき、そのお風呂には着脱式の入浴補助器具も用意されています。シャワーには、全身にシャワーが当たる「Theシャワー」もあり、バリアフリー対応という点では非常に秀逸。アジアンリゾートを思わせる壁紙は、ラグジュアリーな雰囲気を醸し出します。
201号室を含めて、現在バリアフリー・ユニバーサルデザインの客室は計10室あります。
宿のスタッフが「あいサポーター(障がい者サポーター)」としてお客様をお迎え
こうしたハードの改修に留まらず、宿のスタッフが多様な障がいに対応できるように学んでおり、「あいサポーター(障がい者サポーター)」として、お客様を迎えています。
たとえば聴覚障がいのある方に安心してご利用いただけるよう、スタッフは手話の基本表現に触れる体験をしています。また視覚障がいのある方には予約時や当日に館内の触知図を渡しています。
実は、松江市では、「プロジェクトゆうあい」(障がいのある方も、ない方も、全ての人に住みやすく、よりよい社会を作るための団体)を中心に、視覚障がい者のための町歩き音声ガイドも実施していますから、地域一体となった取り組みという点も類を見ません。
この「なにわ一水」が、障がいを持つ人にも利用しやすい宿泊施設などを表彰する
英国の「Blue Badge Access Awards」において、最優秀国際賞(Best International Venue)を受賞しました。日本の施設の表彰は初とのことで、温泉や客室などのバリアフリー化の取り組みが高く評価されたたことは、私にも嬉しいニュースでした。
山崎まゆみさんのプロフィール紹介
山崎まゆみ 温泉エッセイスト・跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学・観光取材学)
現在33カ国の温泉を訪問。観光庁や地方自治体の観光政策会議に有識者として多数参画。
ユニバーサルツーリズムについての活動は、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部事務局「ユニバーサルデザイン2020評価会議」、観光庁「ユニバーサルツーリズム促進事業」など、様々な委員を歴任。
NHKラジオ深夜便で「バリアフリーで温泉を楽しむ」に出演中(毎月第4水曜日)
東京新聞で「バリアフリーで行こう!」連載中(毎月第2・4水曜日掲載)
著作には『行ってみようよ! 親孝行温泉』は「バリアフリー温泉で家族旅行」のシリーズ第3弾。この他、温泉や旅にまつわる書籍『宿帳が語る昭和100年』など多数。
4月8日には新刊『おいしいひとり温泉はやめられない』(河出文庫)を発売。