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英国コッツウォルズ地方を訪ねて

コッツウォルズ地方とは
『コッツウォルズ地方』英国に行かれたことのある方は、聞いたことがある地名ではないでしょうか。美しい田園風景と歴史ある村々が点在することから、「イギリスで最も英国らしい風景」と称されることもあり、またロンドンから車で2、3時間というアクセスの良さから、週末旅行・日帰り旅としても人気を集めています。コッツウォルズ地方は、イングランド中南部に広がる丘陵地帯で、グロスターシャー州を中心に5つの州にまたがる広大な地域です。最大の魅力は、なだらかな丘陵と、はちみつ色の「コッツウォルズ・ストーン」で造られた家々が織りなす美しい景観です。この地方の岩盤は、ジュラ紀に形成されたウーライトと呼ばれる黄色っぽい石灰岩(ライムストーン)が大半を占めています。昔からこの地方では、町村ごとに採石場があり、人々は手近な採石場を利用したそうです。そのため、村々はまるで絵本の世界のような統一感を持っています。

この地方が最も栄えたのは、英国が羊毛(ウール)貿易で栄えた中世の時代です。コッツウォルドライオンの異名をとったこの地方産の長くて太い羊毛は質が高く、他より高値でも引っ張りだこでした。その羊毛はイタリアをはじめヨーロッパ各地へ輸出されました。13~15世紀頃には羊毛貿易によって莫大な富がもたらされ、その富を背景に壮麗な教会や商人の館が建設されました。現在でも「ウール・チャーチ(羊毛教会)」と呼ばれる教会が各地に残っており、当時の繁栄を今に伝えています。

しかし16世紀以降、羊毛産業は徐々に衰退していきます。その理由の一つは、輸出中心だった羊毛から国内で加工する毛織物産業へと経済の中心が移ったことです。また、18世紀後半に産業革命が始まると、繊維工業は水力や蒸気機関を利用しやすいイングランド北部へと移り、大規模な工場生産が主流となりました。各地で羊の品質改良も進み、良質な羊毛はこの地方だけの特産ではなくなってしまいます。コッツウォルズ地方の羊毛産業は次第にその役割を終えていきました。

産業革命以降のコッツウォルズ地方
昔から羊毛産業以外に産業らしい産業はなく、地域経済は落ち込み、若者はよそに出ていくようになりました。一方で、工業化の中心から離れたことは、この地域にとって幸運でした。急速な都市開発が進まなかったため、中世から続く石造りの家並みや田園風景がほぼそのまま残されたのです。19世紀後半になると、この素朴で美しい景観に魅了された芸術家や文化人たちがコッツウォルズを訪れるようになります。その代表的人物が、英国のデザイナー・詩人・思想家・社会運動家などで知られるウィリアム・モリスです。ストロベリーシーフ(いちご泥棒)などのリバティプリント柄でも知られていますね。モリスは、機械による大量生産が広がる産業革命の時代に、職人の手仕事や自然と調和した暮らしの価値を大切にする「アーツ・アンド・クラフツ運動」を提唱しました。コッツウォルズの伝統的な建築や田園風景、職人文化は、まさに彼の理想を体現する土地であり、多くの芸術家や工芸家がこの地域へ移り住みました。彼らの活動は、失われつつあった英国の伝統文化を見直すきっかけとなり、コッツウォルズの景観保存にも大きな影響を与えました。

20世紀に入り乗用車が普及し始めた頃から、産業革命で侵されていない美しい田舎の自然を求めて大勢の人々が訪れるようになりました。英国を代表する観光地として注目されるようになり、映画やドラマのロケ地としてもたびたび登場しています。現在のコッツウォルズは、美しい村歩きやハイキング、歴史ある教会や庭園巡り、伝統的なパブやアフタヌーンティーなど、多彩な楽しみ方ができる人気の観光地です。羊毛産業が築いた歴史的遺産と、ウィリアム・モリスらが見いだした「手仕事の美」、そして豊かな自然が一体となったこの地域は、現代においても「古き良きイングランド」の魅力を最も色濃く伝える場所として、多くの人々を魅了し続けています。

小説『ロージーとりんご酒』
『ロージーとりんご酒』は作家ローリー・リーが幼少期を過ごしたコッツウォルズ南西部・スラッド村での思い出を描いた自伝的作品で、時々読み返したくなる作品です。物語の舞台となるのは、観光名所として知られる華やかな村ではなく、谷あいにひっそりと佇む小さな農村です。作品には、はちみつ色の石造りの家並み、なだらかな丘陵、羊が草を食む牧草地、春の花々や夏の草原、秋の実り、冬の静けさなど、四季折々の自然が描かれています。人々はりんご園で収穫したりんごからサイダー(りんご酒)を造り、村人同士が助け合いながら暮らしていました。機械化が進む以前の英国の農村には、自然と共に生きる穏やかな時間が流れていました。タイトルの「ロージー」は、作者が青春時代に出会う少女です。「りんご酒」は村の暮らしや実り、そして青春の甘酸っぱい記憶を象徴しています。「初めて飲んだりんご酒の味!(中略)谷間の香り、野生の果実で作ったワインの香り、黄褐色の夏の香り…」

物語の舞台は第一次世界大戦(1914~1918年)の直後です。作者ローリー・リーは1914年生まれで、幼少期の1920年代をスラッド村で過ごしました。
戦争の影響は、作品の背景として静かに描かれています。例えば「第一次世界大戦で多くの若者が戦死し、村の人口構成が変わってしまったこと」や「自動車や電気、近代化の波が村にも押し寄せ、古きイングランドが終わろうとしていたこと」などです。第二次世界大戦後、英国では都市の再建や開発が進みましたが、コッツウォルズでは「失われつつある英国の風景を守ろう」という機運が高まりました。その結果、1966年には地域の大部分が特別自然美観地域(現在のNational Landscape)に指定され、美しい村並みや田園風景が守られることになりました。
そのため、英国では『ロージーとりんご酒』は単なる郷愁の物語ではなく、戦争や近代化によって消えゆく英国の農村文化への愛情の記録としても高く評価され、何度かテレビドラマ化もされています。

前述のとおり、英国ではりんご酒のことをサイダーと言います。日本のサイダーとは異なりますよね。シードルといった方が、ピンと来るかもしれません。フランスのモンサンミッシェルを訪れた方は、飲まれたことがあるのでは?フランスのノルマンディー地方の名産でもあります。英国では特にコッツウォルズを含むイングランド西部が知られています。
りんごの栽培に適した気候で、英国有数のサイダー産地です。秋になるとりんごを収穫し、搾って発酵させたサイダーを造る習慣が何世紀にもわたって続いてきました。アルコール度数は4~8%程度でビールに近いです。銘柄によって、甘さ控えめで酸味のあるものからフルーティーなものまであります。口当たりがよく飲みやすいです。
英国のパブではビールと並ぶ定番の飲み物として親しまれています。英国に行かれたら是非試してみてください!

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