1. フランス(リヨン)|パリッと一口、美食の都の朝
18世紀から続くパン文化が息づくフランス。なかでも「美食の都」リヨンのパン屋は、そのクオリティは群を抜きます。
基本のバゲットは、外はパリッと、中は驚くほど瑞々しく、バターやコンテチーズを添えればそれだけで至福の朝食に。
少しお腹が空いた散歩中なら、細身で軽いフィセルを片手にするのも粋です。
リヨンならではの愉しみといえば、鮮やかなピンク色のプラリネを散りばめたブリオッシュ・プラリーヌ。甘い幸せが口いっぱいに広がります。
また、酸味と旨みが凝縮されたパン・ド・カンパーニュは、夜に生ハムやリエットと合わせる楽しみも。
旧市街の石畳を、紙袋からバゲットを覗かせて歩けば、まるで映画の主人公。
セーヌ川沿いで、朝の光を浴びながらピクニックはいかが?
【気候、水質などがその土地ならではのパンを生み出すポイントはこれ】
ローヌとソーヌに抱かれた街。比較的ミネラルの安定した水質は乳製品やシャルキュトリーの塩味をすっきり見せ、発酵にも好相性。寒暖差ある大陸性気候は熟成文化を育て、ビストロや市場に“季節”が生きる。クネルやコンテ、ワインとの相性にも水と気候の個性がにじみます。
2. トルコ(イスタンブール)|ゴマ香るリングと紅茶の街
トルコの食卓において、パンは欠かせない主役です。
街を歩けば、どこからか売り子が鈴を鳴らす音が聞こえてきます。
朝の定番は、たっぷりのゴマが香ばしいリングパン、シミット。外はカリッ、中はふんわりとした生地を、熱い紅茶(チャイ)と一緒に味わうのが現地流のリズムです。
ランチどきには、舟形で見た目も可愛い平焼きパン ピデを。
卵やチーズ、挽肉をのせて焼いた熱々のパンは、心まで満たしてくれます。
どんな料理にも寄り添う素朴な白パン エキメッキも、イスタンブールの日常には欠かせません。
もしラマダン(断食)の時期に旅をしたら、期間限定のもっちりとしたラマダン・ピデに出会えるかも?!
ガラタ橋を眺めながらシミットとチャイ。屋台の温度感、路地の活気、パンの香り、すべてがフォトジェニック。イスタンブールは“パンと紅茶”で記憶される街なのです。
【気候、水質などがその土地ならではのパンを生み出すポイントはこれ】
硬水寄りでコシのある生地文化に加え、チャイの澄んだ渋みが立つのも水のミネラル由来。海風と乾いた空気が保存性の高い料理・乾物文化を支えます。オスマンの多文化史はスパイス使いやハマム(蒸し風呂)の湿熱文化にも結晶。
3. アメリカ(ニューヨーク)|もっちりベーグル、パークで朝ピク
眠らない街・ニューヨークの朝を彩るのは、ユダヤ系移民が伝えたベーグルです。
本場のベーグルは驚くほどもっちりと力強く、クリームチーズとロックス(スモークサーモン)を挟むのが王道。
オニオンやエブリシングといったフレーバーを選ぶのもニューヨーカーの日常です。
街角の屋台でふと目に入るソフトプレッツェルは、大粒の塩とマスタードが効いた、歩きながら楽しむための味。
ブランチには、甘く香ばしいブリオッシュ・ロールや、チョコやシナモンが渦巻くユダヤ系の伝統パンバブカをコーヒーと一緒にどうぞ。
店のネオンやタイルの質感、ロゴが可愛い紙袋まで、すべてがフォトジェニック。
セントラルパークのベンチに座り、自由でエネルギッシュな空気感ごと頬張るのが、NY流の楽しみ方です。
【気候、水質などがその土地ならではのパンを生み出すポイントはこれ】
比較的軟水で、発酵生地やコーヒー抽出がクリアに。冬の冷気は低温発酵を助け、夏は空調文化が食の再現性を支える。移民史はデリ文化やピザにも反映し、水質は“NYピザ・ベーグル論争”の主役。高湿の夏と雪の冬、極端な季節がエネルギッシュな都市の食リズムを形づくります。
4. デンマーク(コペンハーゲン)|ヒュッゲな朝、ライ麦の深み
「世界一幸せな国」のパンは、素材に誠実でどこか温か。北欧・デンマークの日常を支えるのは、ずっしりと重厚なライ麦パン ルグブロです。
薄切りにして、色鮮やかな具材をのせたオープンサンド「スモーブロー」(バターを塗ったパン スモー=バター、ブロー=パン)にするのが定番。
一方で、アイシングの白が映えるシナモンロール カネルスネイルは、コーヒータイムの主役です。
バターリッチで塩気が心地よいテビアケスや、どんなスープにも合うシンプルな白パン ブロートも、寒冷な北欧の朝をやさしく包み込んでくれます。
【気候、水質などがその土地ならではのパンを生み出すポイントはこれ】
硬水×冷涼気候が酸味と保存性を重視する北欧的発酵文化を後押し。燻製・酢漬け・塩漬けの技法が魚介や乳製品に深みを与える。長い冬はろうそくと室内文化を育て、ヒュッゲが食卓の精神に。風が強く光の角度が低い街では、インテリアと器のデザインも“温度”の一部です。
5. リトアニア(ビリニュス)|素朴な黒パンに、バルトの記憶
バルト海に面したリトアニアには、厳しい冬を越えるための知恵と愛情が詰まったパン文化があります。
その核となるのが、伝統のジュオダ・ドゥオナ(黒パン)。
酸味と穀物の香りが強く、ハーブバターやビーツのスプレッドを合わせると、その深い味わいがさらに引き立ちます。
少し遊び心を出すなら、黒パンをガーリックと一緒に揚げたケプタ・ドゥオナを。ビールのお供に最高な、地元の愛されメニューです。
おやつには、カッテージチーズを使ったやさしい甘さのヴァルシュケス・バンドレーレスや、冬に嬉しいハニー・ブレッドをどうぞ。
中世の面影を残すビリニュスの街角で、石畳と古い木の扉を背景にパンを手に取る。
その「おだやかな強さ」は、一口ごとにバルトの暮らしの記憶を呼び起こしてくれます。
【気候、水質などがその土地ならではのパンを生み出すポイントはこれ】
軟水寄りで冷涼。乳酸発酵がゆっくり進み、保存食や酸乳製品(ケフィア)に親和的。厳冬はスープや根菜料理を育て、樹蜜・蜂蜜文化が甘味の基調。クヴァス(パン発酵飲料)に気候と水の個性が表れます。
6. 韓国(ソウル)|かわいいが詰まった、カフェパン天国
今、世界が注目するソウルのパンカルチャーは、とにかく「映え」と「体験」がキーワード。
SNSを賑わせる塩パンは、表面はカリッと、中はバターの層がじゅわっと溶け出す至福の食感です。
生クリームや抹茶が溢れんばかりに入ったクリームパンは、見た目のインパクトも抜群。
サクサクの層が美しいクロワッサンも、韓国らしいスタイリッシュなカフェで味わうと格別です。
伝統をアレンジした、きな粉たっぷりのインジョルミトーストも外せません。内装からトレーの質感までこだわり抜かれた空間は、どこを撮っても絵になります。
人気店は早朝から行列に並ぶことは必須。最近は韓国国内で利用できるアプリで事前予約できるお店も増えてきているのでチェック。
ソウルのパン巡りは、最新のトレンドを五感で楽しむ、刺激的なエンターテインメントです。
【気候、水質などがその土地ならではのパンを生み出すポイントはこれ】
中硬水で出汁や発酵生地のまとまりが良い。蒸し暑い夏と乾寒の冬がキムチ・ジャン類の発酵サイクルを規定し、甕(オンギ)文化を育てた。コーヒー抽出はクリア寄りで、硬水すぎない利点がカフェ文化の拡大に追い風。
7. モロッコ(マラケシュ)|ミントティーと円形パン、色彩の朝
迷宮のようなスーク(市場)を歩くと、どこからかパンが焼ける香ばしい匂いが漂ってきます。
モロッコの人々にとって、パンは家族で分け合う絆の象徴。日常の食卓に欠かせないのが、円形の素朴なパン ホブスです。
モロッコを代表する煮込み料理「タジン」のじっくり煮込んだソースをパンにたっぷり吸わせていただくのが、モロッコ旅の醍醐味。
野菜や肉の旨みが凝縮されたソースとパンの組み合わせは、まさに至福のペアリングです。
屋台で見かける、層が重なる平パン メルウィや、穴の空いたパンケーキ バグリール、薄いクレープ状のムセメンには、たっぷりの蜂蜜とバターを添えて。
ミントティーの清涼感とともに味わうマラケシュの朝は、色彩豊かな器と相まって、まるで五感で味わう美術館のようです。
【気候、水質などがその土地ならではのパンを生み出すポイントはこれ】
硬水と乾燥がセモリナの粒立ち・香ばしさを際立たせ、ミントティーの甘さと渋みをくっきり見せる。日較差の大きい気候はタジンの水分循環に理屈を与え、保存性高い調理が発達。日射の強さは色彩文化と陶器・織物に反映されています。
8. ベトナム(ホーチミン)|軽やかバゲット、風が通る朝
フランス文化の影響を色濃く受けつつ、南国の気候に合わせて軽やかに進化したのがベトナムのパン。
その代表格バインミーは、米粉を混ぜたサクサクのバゲットに、パテやチャーシュー、爽やかななますと香草を挟んだ芸術的なバランスの一品です。
濃厚なパテだけを挟んだシンプルなパテ入りバゲットも、その軽さからつい手が止まらなくなります。
少し甘いものが欲しくなったら、ほんのり甘いココナッツパンや、練乳を使ったローカルなスイートブレッドを。
冷たくて甘いベトナムコーヒー「カフェスアダー」との相性は言うまでもありません。屋台で買ったバインミーを手に、サイゴン川沿いで風に吹かれるひととき。
チープな包み紙の質感さえも愛おしく感じる、エキゾチックで心地よい朝が、ここから始まります。
【気候、水質などがその土地ならではのパンを生み出すポイントはこれ】
軟水×高温多湿で抽出・発酵は軽やかに進み、ハーブや魚醤の香りがクリアに立つ。スコールと強い日射が氷文化・アイスコーヒーを日常化。アメリカ、フランスカルチャーが交差し、メコンの潤いは果物の甘味を豊かにしています。
9. イギリス(ロンドン)|紅茶とスコーン、午後のやさしさ
イギリスの旅には、しっとりとした焼き菓子の香りがよく似合います。
アフタヌーンティーの主役、スコーンは、たっぷりのクロテッドクリームとジャムを添えて、ぜひ「正解の一口」を味わってください。
また、もっちりした表面にバターが染み込むクランペットは、イギリスの朝を象徴する味。
イースターの時期なら、十字の模様が特徴的な春を告げるパン、ホットクロスバンズ を。
レーズンが渦を巻くリッチな甘さのチェルシーバンも、ティータイムを彩る名脇役です。
伝統的なティールームで銀器や陶器の美しさに浸り、赤い二階建てバスが走り抜ける街並みを背景にパンをいただく。そんな穏やかで上品な時間は、慌ただしい日常を忘れて、旅の醍醐味を教えてくれます。
【気候、水質などがその土地ならではのパンを生み出すポイントはこれ】
硬水と冷涼湿潤な気候は紅茶抽出のタンニンを立たせ、ミルクティー文化を定着。酪農と焼き菓子の相性が良く、発酵より化学的膨張に適した環境がスコーン等を後押し。霧雨と低い気温は保存性あるチャツネやピクルス文化にも。水垢がケトルに残る“硬水の記憶”も生活の一部。
10. ドイツ(ベルリン)|噛むほどに深い、穀物の力強さ
世界有数のパン王国・ドイツ。ベルリンではドイツでは様々なドイツ伝統のパンが楽しめ、単なる食事ではなく、大地の恵みそのものです。
黒く重厚なプンパニッケルは、長時間かけて蒸し焼きにされた深いコクがあり、チーズやスモークフィッシュとの相性は抜群。
全粒粉の旨みが詰まったフォルコーンブロートも、噛むほどにエネルギーが湧いてきます。
朝食の定番は、花模様の皮が美しい丸パン カイザーゼンメル。
そして忘れてはならないのが、独特の結び目と塩味が特徴のブレッツェル。ビールとの「幸福なペア」は、ドイツの夜の楽しみでもあります。
朝市で選んだ穀物パンを抱え、博物館島の芝生でピクニック。紙袋に刻まれた活字体もドイツ旅の思い出の一部として心に刻まれます。
【気候、水質などがその土地ならではのパンを生み出すポイントはこれ】
硬水×寒冷がライ・全粒粉の酸発酵を力強く支え、ビール文化(ミネラルがホップの苦味を引き締める)にも直結。冬の長さは燻製・酢漬け・ソーセージなど保存性重視の食を育ててきました。
パン屋は、旅人にとって最高の文化体験スポット。
そこには地元の人々の暮らしがあり、会話があり、笑顔があります。
「パンで世界を旅しよう」次の旅は、パン屋からはじめませんか?