
トラベル&ライフ2026年6-7月号巻頭特集の撮影で、琵琶湖を巡る旅をしてきた。湖を囲む静かで美しい景色、この地だからこそ育まれた文化や歴史。誌面の特集では伝えきれなかった滋賀の旅を、撮り下ろしの写真とエッセイで紹介していく。
撮影時が常にベストシーズンで青空とは限らない。枯れ木の時期も曇天も、その土地が纏う、ありのままの表情なのだ。だからこそ、どんなときも最良の1枚を求めてアングルを探してしまう。冬の静寂に佇むメタセコイア並木は、オフシーズンでも美しく、青葉が芽吹く頃にまた訪れたいと思わせる魅力的な場所だった。
馬のいる景色は、どうしてこれほど心が和むのだろう。並木沿いの「メタセコイアと馬の森」では、乗馬や馬車、餌やり体験など、馬に乗り、触れ、見るために多くの人が訪れていた。地を叩く蹄の響きが木立を抜ける風と溶け込んでいく。異国に訪れたような、いつまでも過ごせる豊かな時間が流れていた。
約450年前、豊臣秀吉もこの景色を眺めていたのだろうか。長浜城跡地に立つ長浜城歴史博物館の展望台から琵琶湖を眺めながらそんなことを思った。城持ち大名になり、ここで過ごした10年余り。後に天下人となる彼は、この風に吹かれ何を願ったのだろう。湖面は、歴史の面影を映し出すように静かに凪いでいた。
取材の合間に立ち寄った白鬚神社。延命長寿の神を祀る古社は、琵琶湖に浮かぶ大鳥居が象徴的だ。淡く霞む湖面に佇む朱色の姿も、どこか幻想的で趣があった。
ラ コリーナ近江八幡の壁一面を埋め尽くすのは、和菓子の歴史をうつす木型たち。時を刻んできた和菓子店「たねや」のこれらの型には、四季の移ろいや人々の願いが細やかに彫刻され、まるで美術品のよう。歳月に磨かれた木の深い艶を眺めていると、職人の手つきやお菓子を囲んだ人々の笑顔まで目に浮かんでくる。
2階にある「たねや」のカフェは、暖かで静かな空間が広がっていた。漆喰の白い天井には満天の星のように黒炭があしらわれている。建築当初、ここで働くスタッフが炭片を貼り付けたと聞き、思わず見入ってしまう。和の素材に人の手が加わり、さらにやわらかな雰囲気を生み出している。ここで過ごすカフェ時間はたまらなく贅沢だ。
琵琶湖を望む高島で出会ったのは、湧水と共生する「川端(かばた)」の暮らし。コンコンと溢れる清らかな水や集落の中を巡る水路は、今も人々の毎日を優しく潤している。周りには花が咲き、綺麗に整備された水汲み場から人々がこの文化や水を大切にしているのが伝わってきた。
船が湖面を静かに滑っていく。都久夫須麻神社の龍神拝所に立ってこの景色を眺めていると、ここが "パワースポット" と言われるのも分かる。湖を撫でる風と波音に耳を澄ませ、そこに身を置くと仕事の緊張感が解け、なんだか力が湧いてきた。
「琵琶湖の広さは "甲子園球場" 約17,000個分です」琵琶湖汽船の船内、不意に流れたアナウンスにハッとする。なるほど、関西では広さの基準は "東京ドーム" ではないのか。些細な言葉の端々にその土地を感じ、思わず口角が上がる。竹生島を背に、波に揺られながらそんな旅の余韻を感じて滋賀を後にした。