カメラと旅する大阪・神戸

トラベル&ライフ 取材こぼれ話
2025年04月15日
カテゴリー
国内旅行
旅行記

トラベル&ライフ2025年4-5月号の撮影で訪れた大阪と神戸。今まで何度か訪れたことはあったけれど、今思い返せば、じっくり街を見て回ったことがなかった気がする。「食い倒れ」だけじゃない大阪、そして、海上から見る神戸、そんな街を写真とエッセイで紹介していく。

大阪市中央公会堂の中集会室

なんて贅沢な空間だろう。アーチ状の天井にシャンデリア、今にもドレスやタキシード姿の人たちが現れて舞踏会が行われそう。ここは国の重要文化財となっている大阪市中央公会堂の中集会室。1918年に竣工してから1世紀以上、大阪の文化・芸術の発展に関わってきた。なんと、一般の人もこの空間を借りられるというから驚きだ。自分が借りるとしたらどんなことができるだろう、と心躍らせた。

中之島の南縁を流れる土佐堀川

公会堂のステンドグラスの窓越しに外をみると、中之島の南縁を流れる土佐堀川が見えた。異国を感じるのは気のせいだろうか。現存するステンドグラスは今では再現できないほどの歴史的価値があるものだそう。立ち並ぶ高層ビルの街並みもなんだか少し華やかに見えてくる。

大阪城

晴天のもと見上げた大阪城は、ますます "鎮座" しているように見える。これが天下をとった豊臣秀吉が築いた城か、と改めて眺めてしまう。今の城は、豊臣、徳川時代に続く3代目のもので、市民の寄付金によって復興されたという。平日でも城を訪れる人は絶えない。大阪を象徴し続け、市民に愛される城。秀吉はその光景を空から満足気に眺めているのだろうか。

大阪でしか見られないマンホール

ふと足元を見るとまた大阪城が目に入った。見上げても見下ろしても城が現れ、思わず笑ってしまった。「大阪ツインタワー」や堂島川に架かる「水晶橋」、水上バスの「アクアライナー」に府のシンボルのイチョウも施され、大阪を象徴するものがぎゅっと詰まっている。大阪でしか見られないマンホールが他にもあるようで、それを探しながら歩く旅も面白いかも知れない。

「北浜レトロ」のスコーンセット

スコーン愛好家はぜひ食したい、「北浜レトロ」のスコーンセット。毎日お店で手作りされているので香り高く、サクサクした食感がたまらない。3段の伝統的なアフタヌーンティーセットは不動の人気メニューではあるけれど、そこまでのボリュームが食べられなくてもこれで十分満足できる。煉瓦造りの洋館に入り、英国直輸入の食器で食せば、もうそこはまるでイギリスだ。

大阪天保山にある水族館「海遊館」

「グレートバリアリーフがここで見られるなんて!」大阪天保山にある水族館「海遊館」を訪れた際、思わず心の中で叫んでしまった。オーストラリア大陸北東湾に沿って続く、世界最大の珊瑚礁を再現した水槽に、遠足の子供たちも釘付けになっている。華やかさだけでなく、より自然に近い形で生命のつながりを表現していて、まるで本物の海中を覗いているようだった。

ピンクの綺麗なイソギンチャク

ピンクの綺麗なイソギンチャクが水の中で気持ちよさそうに揺れていた。さっき見た珊瑚と似ているが、全然違うものらしい。珊瑚の多くは住処を決めたら一生をその場で過ごすのに対し、イソギンチャクは裏側の「足盤(そくばん)」で時速数cmのスピードで移動できるという。なんとも不思議な生命体で、ずっと眺めていられそうだ。

北極の海面下にいる気分に

珊瑚礁を見たと思ったら、今度は北極の海面下にいる気分になる。天井には氷のレプリカ、両側はミラーになっていて海が果てしなく続いているようにみえる。流氷下の海中散歩をしているかのよう。その不思議な景色にしばらく目を奪われていた。海を通して地球一周した気分になり、すっかり堪能してしまった。

綺麗な夕日

さっきまで雪が降っていたなんて信じられなかった。大阪を後にし、車で神戸に向かっていたとき、初雪を見られたことに喜んでいたが、その後の撮影に影響がないか心配していた。そんなことはよそに、強風で雪雲は流れ、神戸港に着いたときには綺麗な夕日が顔を見せてくれた。

船のイルミネーション

夕刻になり、神戸の堂徳山になんだか輝いているものが見えた。「京都五山の送り火」のような行事かと思いきや、船のイルミネーションだった。「市政100周年」を記念して北前船の電飾が作られたのだという。神戸の発展はこの船があったからこそ。光り輝く船はまさにこの港町のランドマークだ。

神戸の夜景

寒さで耳がちぎれそうだった。天気には恵まれたものの寒波が舞い込んできた夜の海上の空気は予想以上に凍てついていた。夜景を撮るためにクルーザーの甲板に出ると、冷たい風が肌を刺す。写真であの寒さを伝えられないのが悔しい。ただ、その冷風のせいか空気はとても澄み、ファインダー越しに見た神戸の夜景はいっそう輝いて見えていた。

あっという間の大阪・神戸の滞在だったけれど、今まであまり見てこなかった側面を見た気がする。「食い倒れ」の大阪であることには揺るぎがないし、神戸といえば港町だけれど、それだけだと思い込んでしまっていてはもったいない。大阪にも異国情緒あふれるところや海中散歩をした気分になれる場所もある。寒さに耐え忍びながら海上から見た神戸は、ひときわ明るく輝いていた。角度を変えるとまた違う景色が見えてくる。旅の面白さはそこにあるのかもしれない。

写真・文=葛西亜理沙

そのほかの取材こぼれ話とあわせてお楽しみください。