旅する写真家のシアトル Vol.02

シアトルのセカンドシティ、ベルビューの街で
2026年02月13日
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海外旅行
旅行記

シアトルのダウンタウンから東へ車を走らせわずか20分。穏やかに広がるワシントン湖を越えてベルビューに着いた。かつてはシアトルのベッドタウンと知られたこの場所は、今や「シアトル第二の都市」として活気づいている。摩天楼が林立するわけでもなく、観光地のような派手さがあるわけでもない。人が心地よく過ごすためのリズムと美しく整えられた風景がある街を旅してきた。

パリの朝をベルビューの街角で

カフェは陽の光がたっぷり降り注ぎ天井も高くて開放感がある カフェは陽の光がたっぷり降り注ぎ天井も高くて開放感がある

ベルビューの朝は、光がやわらかく差し込むフレンチカフェから始まった。バターとコーヒーの香ばしい香りに導かれ訪れたのは「L'Experience Paris」。扉を開けると、どこかフランスを感じるような雰囲気で、焼きたてのペイストリーやワインボトルが整然と並ぶ棚が迎えてくれた。

フランスから輸入した材料で作られたパンやバゲットはいい香りを放っていた フランスから輸入した材料で作られたパンやバゲットはいい香りを放っていた

オーナーのジュリアン・エルヴェさんは、かつてフランスで弁護士をし、海を渡ってマイクロソフトでキャリアを重ねるという異色の経歴をもつ。そんな彼が、IT業界を離れ、このカフェを開いたのは驚くほど純粋なものだった。
「美味しく手頃なフランスワインを、財布を痛めることなく心から楽しんでほしい」
ヨーロッパから来る家族のために、そして、アメリカの友人のために。

オーナーのジュリアン・エルヴェさんは食べるのが大好きでとてもフレンドリー オーナーのジュリアン・エルヴェさんは食べるのが大好きでとてもフレンドリー

複数の仲介業者が介在することで価格沸騰するフレンチワインに疑問を持ち、自らワインの輸入を始めた。そして、食材もフランスからとり寄せ、ワシントン州の新鮮なオーガニック野菜を使ってここでしか味わえない料理を提供していく。フランスとアメリカが融合した特別な場所で、この上ない贅沢な時間を過ごした。

人の手で守られる静寂の庭「ベルビュー植物園」

植物園に一歩入ると色とりどりの木々や花たちが迎えてくれる 植物園に一歩入ると色とりどりの木々や花たちが迎えてくれる

優雅な朝を過ごした後に向かったのは、夜明けから日没まで開園しているベルビュー植物園。誰でも無料で入園できるこの場所は、街の真ん中に静かに存在している。広さ東京ドーム5個分弱の中に3,000種類もの植物が育てられている。

日本では見たことのない植物や、馴染みのある花を見かけた。(左下)茶室のような東屋もあった 日本では見たことのない植物や、馴染みのある花を見かけた。(左下)茶室のような東屋もあった

驚いたことに、この広大な敷地に常勤はたったの3名とパートタイマーが3名しか働いていないという。たった6名でこの公園をどうやって管理するのかと思っていたら、なんと約300人以上のボランティアがこの植物園に携わっている。それほどまでに、街の人たちから愛されている場所なのだ。

庭の手入れをするボランティアの人たち 庭の手入れをするボランティアの人たち

入場無料というかたちが守られているのは、多くの寄付と人々の協力によってこそ。まるで "街の誇り" であるかのようにベルビューの中心に佇んでいるのはそのせいなのかもしれない。この場所は、 "管理されている庭" ではなく、まさに "育てられている風景" なのだ。

ベルビュー植物園



誇りを受け継ぐ美食のイタリアンレストラン

レストランへと続くエントランスにはテラス席が並び、洗練された雰囲気 レストランへと続くエントランスにはテラス席が並び、洗練された雰囲気

たくさんの植物に癒され心穏やかになった後は、ダウンタウンパークの目の前にあるイタリアンレストラン「Carmine's Bellevue」へ。1984年にシアトルで創業した名店の系譜を受け継ぐ店だ。2012年に急逝した伝説的な創業者、カーマインズ・スメラルド氏の遺志を継いだ息子たちが2016年にここにオープン。家族の記憶とイタリアの伝統を今に伝えている。

パスタはもちろんリゾットも人気で、リピーターのお客さんも多い パスタはもちろんリゾットも人気で、リピーターのお客さんも多い

テラス席から続く店内は、重厚なインテリアと洗練されたサービスで彩られている。高級イタリアン・ダイニングでありながら、どこか温かいのはイタリア人の陽気な雰囲気と創業者の意思を受け継いでいるからなのかもしれない。

角に立地しているレストランは窓が多くとても明るい 角に立地しているレストランは窓が多くとても明るい



ベルビュー・ダウンタウンパーク

賑わっているレストランを出て目の前の公園に入ると、突然、緑に包まれた静けさが現れる。シアトル・ダウンタウン公園は、高層ビルに寄り添うように広がる小さなオアシスのようだ。

シアトル・ダウンタウン公園

芝生に腰を下ろす人や、木陰で本を読む人、犬と散歩を楽しむ人、それぞれの時間が交差しながら、互いに干渉しない距離感が心地いい。ここでは都市の音が和らぎ、街と人の呼吸が揃う。その穏やかなリズムがベルビューらしい。

(左)鴨も日光浴や水浴びを楽しんでいた (右)「ピロティ」と名付けられた現代アートも見られる (左)鴨も日光浴や水浴びを楽しんでいた (右)「ピロティ」と名付けられた現代アートも見られる



ベルビューを一望できるモダンな場所

大きな窓からはベルビューを一望でき目が釘付けに 大きな窓からはベルビューを一望でき目が釘付けに

そして、モダンなベルビューを求めて訪れたのが、公園のすぐそばに建つリンカーン・スクエアにある「Ascend Prime Steak&Sushi」。店内に一歩踏み入れると、ガラス窓の先に見える地上31階からの圧倒的な眺望に魅了される。

料理人を志す若者を支援する「31Lives」というプログラムもあり、コミュニティへの貢献でも知られている 料理人を志す若者を支援する「31Lives」というプログラムもあり、コミュニティへの貢献でも知られている

そして、その景色に負けないのは、アジアのエッセンスを融合させ驚きに満ちたコンテンポラリーで華やかな料理とカクテル。日本人に馴染みのある枝豆は、ラー油とゆずのフォームがかけられ、エビの天ぷらは "テンプラ・ロリポップ" と名付けられ柚子胡椒アイオリ(ニンニクとオリーブオイルを混ぜた濃厚ソース)や紅芯大根が添えられ味も斬新だ。

カクテルはどれも見かけも味も特徴的で、飲むたびに驚きがある カクテルはどれも見かけも味も特徴的で、飲むたびに驚きがある

お店の雰囲気、料理にドリンク、まるで店全体でベルビューのモダンな躍動感を体現しているかのようだった。食前酒を少し楽しむ程度のつもりでいたのが、カクテルの種類の多さと景色に魅了され、心地いい大人の時間を堪能してつい長居してしまった。

地上31階のお店のテラスから見える景色。ワシントン湖の奥に見えるビル群はシアトル・ダウンタウン 地上31階のお店のテラスから見える景色。ワシントン湖の奥に見えるビル群はシアトル・ダウンタウン



ベルビューのガストロノミーを牽引してきた立役者

オーナーシェフのジョン・ハウイー氏。お会いした日は偶然にも彼の誕生日。「今日はお祝いしてもらうんだ」と嬉しそうだった オーナーシェフのジョン・ハウイー氏。お会いした日は偶然にも彼の誕生日。「今日はお祝いしてもらうんだ」と嬉しそうだった

そして、ベルビューの夜にふさわしい一皿を求め「ジョン・ハウイー・ステーキ」へ。ジョン・ハウイー氏は、10年間の料理修行を経て自らの名を冠にしたこの店を開業。品質への徹底したこだわりで評価を重ねてきたこの店は、シェフ主導のステーキハウスとして市場に新たな基準を示してきた。2013年のジェームス・ビアード賞へのノミネートは、その歩みを語っている。

(左上)陳列された熟成肉と(右上)炭火で丁寧に焼き上げられたステーキ (左上)陳列された熟成肉と(右上)炭火で丁寧に焼き上げられたステーキ

ベルビューのガストロノミーを牽引してきたにも関わらず尖ったところがなく、オーナー兼シェフのジョンは、とてもフレンドリー。それは、このお店の人気の秘訣なのかもしれない。特注の熟成肉をメスキートの炭火で焼き上げられる香りはまさに至福そのものだった。その一切れには、食への愛、彼が歩んできた料理人としての歳月と、素材への深い敬意が凝縮されていた。

広いスペースの店内にはオープンスペースと半個室のテーブル席もあり、いろんな形で食事を楽しめる 広いスペースの店内にはオープンスペースと半個室のテーブル席もあり、いろんな形で食事を楽しめる



旅の終わり、新しい始まり

滞在したインターコンチネンタルの部屋

昨夜はあんなにお腹いっぱい食べたのに、翌朝はスッキリと目が覚めた。新鮮な食材の料理と良いワインを食した証拠だ。滞在したインターコンチネンタルの部屋のカーテンを開けると窓からは綺麗に色づいた木々が見えた。「なんて景色がいいんだろう」と思わず月並みの言葉がこぼれた。

ホテルの中は洗練された雰囲気と安らぎ感がある

ホテルの中は、ベルビューの街並みのように、洗練された雰囲気と安らぎ感がある。景色を見ながら今回の旅を思い返していた。ベルビューは派手な観光地ではない。けれど、丁寧に選ばれ、守られ、育てられた風景がある。その静かな豊かさに触れる旅は、次への新しい旅のきっかけとなった気がした。その記憶を胸にカメラをぶら下げ空港へと向かった。

ホテルの窓から見えたシアトル・ダウンタウンのビルたち ホテルの窓から見えたシアトル・ダウンタウンのビルたち



写真・文=葛西亜理沙 コーディネーター:松田京子

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<取材協力>
シアトル観光局
ベルビュー観光局

◆インターコンチネンタル ベルビュー
住所 : 850 Ave Sq NE, Bellevue, WA 98004

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