
スペイン南部のアンダルシア地方はイスラム教徒による支配が8世紀から何百年も続いたため、今もイスラムの息吹が感じられます。そのため、ヨーロッパのほかの地域には例を見ない独特な魅力があり、世界中から観光客が訪れます。今回はそんなアンダルシア地方を代表するコルドバ、グラナダ、セビーリャの三都のお話です。
マドリードから高速鉄道で約2時間の距離にあるコルドバの町。ここは古代ローマ時代には属州の首都、また8世紀に成立したイスラム教徒のウマイヤ朝でも首都となり栄えた歴史があります。特に10世紀には文化の中心地として繁栄を極め、世界最大の人口を抱えていました。その数は現在の人口よりも多かったというので驚きますね。
コルドバに来て見逃すわけにはいかないのが、メスキータ(コルドバ大聖堂)です。13世紀にキリスト教勢力がこの地を奪回した後、イスラム教寺院を取り壊すことはせず、そこにキリスト教寺院を造ったのです。中に足を踏み入れると、まずは赤と白の二重アーチが無数に並ぶ幻想的な光景に息を飲むこと間違いありません。細かな装飾が美しいイスラム教のミフラーブ(メッカの方向を示すくぼみ)にゴシック、ルネサンス、バロックとキリスト教の3つの建築様式が融合した世界に類を見ない空間は、旅の思い出に強く残ることでしょう。
薄暗い中に並ぶ二重のアーチが印象的なメスキータ内部 ©Turismo de Córdoba
メスキータは、白壁の家が並ぶユダヤ人街の中心に位置するのですが、ここには迷路のような小道が入り組んでいて散策欲が搔き立てられます。この辺りは毎年5月に開かれるパティオ祭りの会場でもあり、白壁に飾られた鉢植えの色鮮やかな花が目を楽しませてくれます。
白壁に鮮やかな花がまぶしいパティオ祭り ©Turismo de Córdoba
コルドバには、ほかにコロンブスがカトリック両王に謁見したアルカサルや、12のパティオを持つ14世紀のビアナ宮殿などがあり、郊外には10世紀に築かれたイスラムの城郭都市メディナ・アサーラ跡といった見どころがあります。
コルドバ中心部から約8㎞離れたところにあるメディナ・アサーラ ©Turismo de Córdoba
ヨーロッパの宮殿と聞くと、ベルサイユやシェーンブルンのような様式の宮殿が頭に浮かびます。が、そういった宮殿と一線を画しているのがグラナダのアルハンブラ宮殿です。
アルバイシン地区から見るアルハンブラ宮殿全景は壮観! ©www.turgranada.es
グラナダは、イベリア半島最後のイスラム王朝であったナスル朝グラナダ王国の首都でした。14世紀に完成したアルハンブラ宮殿は、当時のイスラム建築の最高峰と謳われています。東京ドーム3つ分の広大な敷地には、ナスル朝宮殿のほかに要塞だったアルカサバや夏の離宮だったヘネラリフェ、カルロス5世宮殿、元修道院を改装した国営ホテルパラドールなどが点在します。もともとここは、住宅やモスク、学校、浴場といった様々な施設があった城郭都市だったのです。最盛期には2,000人ほどが暮らしていたといいます。
もっとも見応えがあるのは歴代の王たちが暮らしたナスル朝宮殿です。ここは入ってすぐのメスアール宮、コマレス宮、ライオン宮からなり、美しいアラベスク模様や漆喰細工やモザイクタイル、ステンドグラスなども用いられた精巧な装飾が施されたアラビアンナイトの世界! 何度も感嘆のため息をもらさずにはいられません。
メスアール宮にある美しい中庭 ©www.turgranada.es
とにかく広く、全部見てまわると4時間はかかるので、時間に余裕をもって歩きやすい靴で行くことをおすすめします。
アルハンブラ宮殿のある丘とダーロ川を挟んだ反対側の丘には、グラナダ最古の町並みアルバイシン地区があります。細い路地と坂道で入り組んでいて、とても情緒あふれる一画です。丘の上にあるサン・ニコラス展望台という広場は、シエラ・ネバタ山脈を背にしたアルハンブラ宮殿の全景を望むことができる必見ポイントになっています。
アルハンブラ宮殿から見るアルバイシン地区 ©www.turgranada.es
アルバイシン地区や隣接するサクロモンテ地区ではフラメンコショーが観られる ©www.turgranada.es
グラナダにはアルハンブラ宮殿やアルバイシン地区のほか、大聖堂や、王立修道院などの観光スポットがあります。アラブ料理レストランも多いので、スペイン料理に飽きたら試してみるのもいいですね。なお、グラナダ-コルドバ間は列車だと1時間半~2時間、バスだと2時間半~3時間、グラナダ-セビーリャ間は列車、バスともに3~4時間の移動となります。
メスキータやアルハンブラ宮殿ほど視覚的に強く印象を与える名所はないものの、見どころが多く華やかで圧倒的な存在感を放つのがセビーリャです。実は私にとってヨーロッパで初めて訪れた町でもあり、そのためスペインで1番好きな町でもあります。アンダルシア州の州都で、スペインで5番目に大きな都市です。コルドバとは高速列車で1時間の距離にあります。
青い空に白い家が映えるサンタ・クルス街 ©TURESPAÑA
セビーリャの長い歴史の中で、もっとも栄えたのは16世紀〜17世紀にかけての大航海時代、いわゆるスペイン帝国の黄金期。中南米貿易の中心地として、セビーリャを流れるグアダルキビール川を遡り金銀財宝を積んだ船が着いたのです。豪華な宮殿や教会などが建てられ、文化や芸術の花も開いたのだとか。それが今もセビーリャに華やかさを残しているのかもしれません。
主な観光スポットとしては、世界で3番目に大きなキリスト教寺院の大聖堂(中にはコロンブスの墓も)、イスラム建築美を愛したペドロ1世王が建てた宮殿アルカサル、今から約100年前の万博時に造られ『アラビアのロレンス』や『スターウォーズ』などの映画のロケにも使われたスペイン広場、アルバ公爵家が所有するドゥエニャス宮、白い家と細い道のサンタ・クルス街、黄金期のスペイン絵画が豊富な美術館などなど。1日ではまわり切れません。
大聖堂に隣接するヒラルダの塔からは町が一望できる ©TURESPAÑA
レンガと陶器タイルが特徴の半円形の建物があるスペイン広場 ©TURESPAÑA
セビーリャは闘牛やフラメンコの中心地でもあり、またアンダルシア各地で開かれるフェリアというお祭りが盛大なことでも知られています(日本でいうセビーリャの春祭りのこと)。私がセビーリャの形容に"華やか"という言葉を使いますが、このお祭りはスペインでもっとも華やかだと言っても過言ではないはず。機会があればぜひ行ってみていただきたいです。
一度は行きたい明るく華やかなセビーリャの春祭り ©TURESPAÑA
さてさて、コルドバ、グラナダ、セビーリャの三都の共通のお楽しみがバル巡りです。町には多くのバルがあり、地元の人や観光客で大賑わい。特にグラナダでは、飲み物を頼むと無料のタパ(おつまみ)がついてくる文化があり面白いです。地元の人を真似てバルのはしごを楽しんでみては?
朝食・昼食・夕食や散策途中の休憩にも使える町角のバル ©Turismo de Córdoba
最後になりますが、ここでお話しした『メスキータ』、『メディナ・アサーラ』、『アルハンブラ宮殿』、『アルバイシン地区』、そして『セビーリャ大聖堂』はユネスコの世界遺産に登録されています。世界遺産ハンターの方もそうでない方も、アンダルシア三都を訪れて南スペインの魅力をご堪能ください。アンダルシアにはフリヒリアナやミハス、カサレス、アルコス・デ・ラ・フロンテーラなど美しい白い村も点在しているので、あわせて訪れるとより充実した旅になること間違いなしです!