「せんべい汁」
「せんべい汁」

八戸のソウルフード「せんべい汁」

にほんグルメ探訪
2025年12月12日
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もちもちとしたせんべいからじわりとつゆが染み出し、口いっぱいに旨味が広がる。「せんべい汁」を初めて食べた人は、まずそのおいしさに驚くのではないだろうか。
「せんべい汁」は、青森県八戸市周辺で誕生した料理である。鶏肉や豚肉、魚、野菜を煮込んだつゆに、専用の「南部せんべい」を割り入れて煮込む郷土料理だ。

せんべいはアルデンテが美味 せんべいはアルデンテが美味

かつて八戸市が位置する青森県南東部から岩手県北部は八戸藩の領地だった。ここでは「やませ」と呼ばれる稲作に不向きな気象条件から、冷害に強い小麦や蕎麦が栽培され、小麦粉と塩と水を混ぜて鉄製の型で焼いた「南部せんべい」が主食や副食として食べられていた。
「せんべい汁」の起源は、江戸時代には当時庶民の日常食であった「南部せんべい」を汁物にも入れて食べたという説や、兵士が野戦食として戦場に持ち込み鶏や野菜と煮込んで食べたという説、戦前に川魚であるウグイのあら汁に「南部せんべい」を入れたなど諸説あるが、人々の知恵が生み出した料理は、現在に至るまで八戸地方一帯で食べられてきた。

おつゆせんべい おつゆせんべい

戦後になると、製造業者によって、煮崩れせずもちもちとした食感が楽しめる汁用の「南部せんべい」が開発され、「おつゆせんべい」などの商品名で販売されるようになった。この汁用せんべいの誕生によって、「せんべい汁」のおいしさはさらにグレードアップした。
家庭料理だった「せんべい汁」が、郷土料理としても注目され始めたのは平成になってからだ。特に平成14年(2002年)の東北新幹線の八戸駅延伸を機にPRに力を入れ始め、次第に名物化されるようになった。

「八戸せんべい汁研究所」 「八戸せんべい汁研究所」(B‐1グランプリ前日の商店街パレード)

「せんべい汁」が全国的に知られるようになったのは、「八戸せんべい汁研究所」の活動が大きく影響しているといえるだろう。平成15年(2003年)に、市民ボランティア団体として発足した「八戸せんべい汁研究所」は、全国各地で「八戸せんべい汁」を振る舞い、八戸せんべい汁応援ソングを歌って八戸のPRを行った。さらに、今や全国的なまちおこしイベントとして知られる『B‐1グランプリ』を発案・企画・開催してB級ご当地グルメブームを起こし、平成24年(2012年)「第7回B‐1グランプリin北九州」でゴールドグランプリ(日本一)を獲得。「八戸せんべい汁」の名は一気に広まった。

「第7回B‐1グランプリin北九州」 「第7回B‐1グランプリin北九州」(ゴールドグランプリを獲得した表彰式)

「八戸せんべい汁研究所」は、その後も飲食店や観光関係者を対象にした『八戸せんべい汁おもてなしアカデミー/おもてなしマイスター』認定制度、小中学校を訪問する『まちおこし出前講座』などを行い、八戸市内での観光客へのおもてなしの向上を図った。現在の課題は、八戸を第二の故郷だと思ってもらえるファンやリピーターを増やすことだという。
「まちおこしに、終わりなし!」を合言葉に、活動を続ける「八戸せんべい汁研究所」のメンバーたち。ソウルフード「八戸せんべい汁」を引っ提げて、今日も楽しみながら活動を続けている。

せんべいを割って鍋に入れる
せんべいを割って鍋に入れる

八戸せんべい汁研究所が推奨する「せんべいのベンツ割り」
八戸せんべい汁研究所が推奨する「せんべいのベンツ割り」

協力・写真=八戸せんべい汁研究所 文=磯崎比呂美
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