ブドウ畑を望むブティックホテル

トラベル＆ライフ2025年12月-2026年1月号の巻頭特集は『芸術の街バルセロナとカヴァの故郷ペネデス地方』。バルセロナの近郊のペネデス地方はスペインを代表するスパークリングワイン「カヴァ」の発祥の地で、個性豊かなワイナリーが点在し、多くのワイナリーでは見学ツアーを実施している。

そのペネデス地方で宿泊したのが「Hotel MontRubí 1771」。バルセロナから車で1時間ほどのところにあり、都会の喧騒を離れて静かな時間を過ごせるのが魅力だ。部屋は10室あり、それぞれ部屋の趣は異なるが、石と木を巧みに配した空間は温かみがあり居心地がいい。また、ワイナリーを持っているのも特徴で、ブドウ畑を見学し、生産工程について学ぶこともできる。

ワイナリーの一部を見せてもらうと、セメントでできた卵型の甕が並んでいた。これはワインを入れて熟成させる容器で、この形の容器の方が中で自然な対流が起こるのだという。
また、一角には19世紀に収穫したブドウの実を入れて、足で踏んで発酵させていた場所もあった。今は使われていないが、壁に残る沁みからもここで培われてきた長い歴史が感じられた。

別棟にあるレストランはテラス席があり、目の前に広がるブドウ畑を眺めながら食事ができる。特に爽やかな朝の空気の中でとる食事はおすすめ。ブドウの葉が太陽の光を浴びてイキイキと輝くさまを眺めながら自慢の料理をいただけば、心も身体もエネルギーで満たされる。

朝食を終えて周辺を散歩していると、ブドウ畑で作業をする人たちに出会った。日当たりと風通しが良くなるようにするために、不要な枝や葉を取り除きながら新しく伸びた枝をワイヤーに挟んで垂直に立たせている。その慣れた手つきに少しの間、見とれていた。この誘引作業はブドウの木の成長や季節に合わせて行われるという。おいしいワインはこうした細やかな作業によって生まれているのを改めて実感したら、すでにワインが恋しくなった。

カフェで若い日のピカソに思いを馳せながら小休止

バルセロナでは主にガウディの建築物と同時代に華開いた「モデルニスモ」と呼ばれる芸術様式の建築物巡りと街歩きの途中で立ち寄りたいレストランやカフェなどを取り上げた。
そのひとつが、「Els 4 Gats」。フランスのパリにあったキャバレー「ル・シャノアール」を模して1897年にオープンした店で、1903年に惜しまれつつ閉店したが、1978年に当時の店の雰囲気をそのままに再びオープンした。スペインを代表する芸術家であるピカソが若かりし日に足しげく通ったことで知られ、初めての個展を開いたのもこの店だったというピカソにゆかりがあるカフェだ。

その繋がりの深さを示すように、ピカソが描いた絵がメニューの表紙を飾っている。ピカソはこの店に訪れると、よく紙ナプキンに絵を描いていたそうだ。若かりし日のピカソに思いを馳せながら、"もしかしてピカソもこの席に座ったかもしれない" －。そんな想像を膨らませながら味わうコーヒーは格別だ。

チョコレートの奥深さを知る

創業1797年とバルセロナでもっとも古いチョコレート製造店「Chocolate Amatller」では、自分だけのチョコレート作りを体験した。本誌では掲載しきれなかった写真とともに、その内容をもう少し詳しく紹介しよう。

体験は映像鑑賞から始まる。創業当時の映像で同店の歴史を振り返り、その後、シグネチャーのチョコレートを味わう4種類の "利きチョコ" へ。1粒ずつ手の甲にのせ、チョコレートの輝きや色の濃さを確かめ、香りをかぎ、口溶けを味わいながら、チョコレートの種類について学ぶ。

次はローストしたカカオ豆を温かい石臼に入れて、すり棒ですり潰してペースト状にして、そこへ好みの量の砂糖やシナモンなどを加える。ペーストを滑らかにするには案外力がいるが、少しずつ照りが出てくるので面白さが増していく。いい具合になったチョコレートを味見してみると、お店の繊細な味には遠く及ばないが、手間をかけた分の満足感はあった。

最後は創業当時から変わらない味わいで親しまれているホットチョコレートをいただいて体験は終了。チョコレートの奥深い世界にふれる貴重な時間だった。