
ロンドンを象徴する存在のひとつ、テムズ川。対岸へ渡る一般的な方法といえば、国会議事堂とその大時計「ビッグ・ベン」の眼前にかかるウェストミンスター橋や、童謡の歌詞でもおなじみのロンドン橋、そして見事な建築物としても有名なタワーブリッジなど、橋を利用するのが一般的な方法といえるでしょう。今回はそれとは異なり、「渡る」こと自体がちょっとしたエクスペリエンスとなるような、ひと味違ったテムズ川の渡り方をご紹介します。
まず、観光客にも比較的よく知られた「渡り方」からいってみましょう。ミレニアム・ブリッジは、その名のとおり、西暦2000年のミレニアム・イヤーに開通した歩道橋です。
といいながら、全長325mにおよぶスチール製のこの吊り橋は、実は順風満帆なスタートではありませんでした。2000年6月10日の開通からわずか2日後の6月12日には、通行禁止となってしまいました。その原因は、開通を祝って訪れた大勢の人が体感した、重大な横揺れ問題が発覚したためです。そのため、そこから必要な補強工事を経て、再度橋が開通するまでには2年の年月が必要となってしまったのです。
そんなミレニアム・ブリッジですが、今や旅行者にも大人気の観光スポットとなっています。橋の北側にはセント・ポール大聖堂、南側には現代美術館「テート・モダン」の巨大な建物が望める、まさに抜群のロケーションです。写真撮影をする観光客の姿が絶えることはありません。
最寄駅は、川の両岸に改札口がある鉄道駅のブラックフライヤーズ駅(Blackfriars)、そして川の北岸に位置する地下鉄ブラックフライヤーズ駅とマンション・ハウス(Mansion House)駅です。橋から下流の方向には、ロンドン・ブリッジ駅の駅前にそびえたつガラス張りの建物「ザ・シャード」と、跳ね橋のタワー・ブリッジも見ることができます。
同じく徒歩でテムズ川を渡れるのがこちら。北側は、ロンドン東部の金融街「カナリー・ワーフ」が位置する半島、アイル・オブ・ドッグス、そして世界遺産の都市として有名なグリニッジを南側で結ぶ、グリニッジ・フット・トンネルです。
こちらは川の南岸、グリニッジ側のトンネル入口です。特徴的な丸天井でレンガ造りの建物に入り、100段の階段を下りていくと、目の前に登場するのは無機質なトンネル!
テムズ川の下を通るこのトンネルが開通したのは1902年。全長370メートル、徒歩約10分の距離で、通行料は無料です。自転車は降りて押して歩けば通行可能なほか、犬の通行も許可されています。
グリニッジ側から対岸を望むと、写真右手の木の間に見える、南側と同じく白い丸屋根を持つ円筒形のレンガ造りの建物が北側のトンネル入口です。写真左手の高層ビル群は金融街のカナリー・ワーフです。ちなみにトンネルの入口には一応エレベーターがあるのですが、故障により動いていないことも多いため (北側入口のエレベーターは2022年8月より稼働していないとのこと!)、階段の使用を覚悟したうえでご利用ください。
次は、O2ドームのあるグリニッジ半島の先端を南側の出発点とし、ロンドン市役所の2代目庁舎が位置するロイヤル・ビクトリア・ドックを北側の拠点とする、ロンドン・ケーブルカーを使ってテムズ川を渡ってみましょう。2012年のロンドン五輪に合わせて開業したロンドン・ケーブルカーは、交通手段というよりはこれ自体がおすすめの観光アトラクションとなっています。開業時よりのスポンサー契約を得ていたエミレーツ航空の命名により「エミレーツ・エア・ライン」として長年知られてきましたが、2022年10月以降は、新たなスポンサーとなったIFS ABの命名でIFSクラウド・ケーブルカー(IFS Cloud Cable Car)と呼ばれています。
グリニッジ側のケーブルカー駅「グリニッジ・ペニンシュラ駅(Greenwich Peninsula)」は、O2ドームの最寄駅、地下鉄ノース・グリニッジ駅から徒歩約5分のところにあります。地下鉄駅を出るとすぐに、ケーブルカー駅への道案内の看板があるので、従って歩いていきましょう。
ケーブルカーは30秒間隔で到着し、1台に最大10人まで乗車できます。乗車後すぐに、結構な速さと角度で上昇していきます。通常の乗車券に加え、関連アトラクション付きのパッケージチケットもオンラインでの事前購入も可能ですが、ロンドンのその他の交通機関と同様、乗車時のコンタクトレス決済でも利用できます。2025年10月現在、通常の片道運賃は大人7ポンド、往復運賃は13ポンド(子供はどちらも半額)となっています。
テムズ川の水面から最大90メートルの高さを行くケーブルカーの空の旅は、所要時間約10分。その間、O2ドームはもちろんのこと、セント・ポール大聖堂やシティ (金融街) の高層ビル群、オリンピック・パークなど、空から素晴らしい眺望が楽しめます。
IFS Cloud Cable Car
営業時間
月~木 08:00-21:00/金 09:00-22:00/土09:00-23:00/日・祝日 09:00-21:00
最後は、この中では一般的な観光客への知名度は一番低いと思われる、ウーリッジ・フェリー(Woolwich Ferry)です。テムズ川のさらに下流、ロンドン東部のウーリッジとノース・ウーリッジを結ぶ、ロンドン交通局が運営する無料のサービスで、車と人を対岸へと運んでくれます。
こちらは南側のフェリー乗り場、ウーリッジ駅から徒歩10分程のウーリッジ・フェリー・サウス・ピアです。写真奥、青い連結部の先がフェリーの入口となっています。歩行者は右側の歩道からそのまま乗船できます。
そして出発後、川を横断中のフェリーの様子がこちら。狭いですが、歩行者がちょっと腰をかけられるような屋根付きのラウンジもあります(写真右手)。
フェリー後部はこんな感じ。散歩の延長であまりに気軽に乗船できて拍子抜けしてしまうほどです。
対岸に接岸すると、再び青の連結部がつけられ、下船することができます。フェリーは朝6時台から22時まで15分間隔で出発しており、5分で対岸へと到着します。北側のウーリッジ・フェリー・ノース・ピアは、最寄り駅のDLR(ドックランズ・ライト・レイルウェイ)キング・ジョージ V(King George V)駅から徒歩9分ほど。著名な観光エリアではありませんが、一風変わった交通手段を楽しみたいという方は、是非ともチャレンジしてみてください。
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