
スペインといえば、誰もが思い浮かべるのがおいしい食事。なかでもパエリアはそんなスペインを代表する料理ですが、実はバレンシア地方の郷土料理なんです。20年以上この地に暮らす私は、すっかりパエリアにうるさくなってしまいました。今回は、パエリアに関するうんちくとバレンシアでおいしいパエリアが食べられる名店情報をお届けします。
パエリアの発祥地は、バレンシア市からほど近いアルブフェラ湖周辺。昔から農業が盛んなこの地域では、今もなお稲作が行われています。15~16世紀頃、農作業に励む人々がお昼時に野外で火を起こし、身近な食材と一緒に大鍋でお米を炊いたのがパエリアの始まりだったのだとか。当時はお皿を使わずに、みんなでお鍋を囲んで直接スプーンで食べたそうです。
アルブフェラ湖畔にはパエリアレストランが立ち並ぶエル・パルマルという村があり、ボートで湖の周遊ができる
アルブフェラ湖近くの水田。バレンシアでは苗は使わず直播きする
ところで、パエリアの具材は何?と聞かれると海老やムール貝だと思う方が多いのではないでしょうか。 実は本場バレンシアで単に「パエリア」というと、魚介類ではないのです。バレンシア風パエリアの具材は、鶏肉とウサギ肉に、白インゲン豆、平サヤインゲン。これに赤ピーマンやアーティチョーク、カタツムリ、ミートボールが入ることもあります。これこそがバレンシア人のソウルフードのパエリア!! バレンシアの人たちはパエリアへのこだわりが強いので、それ以外のものを使うと「これはパエリアではない」と批判されがち・・・。
これは2人前のバレンシア風パエリア
もちろん魚介のパエリアも存在します。ただ、日本のパエリアのようにてんこ盛りに具材はのっておらず、シンプルな見た目。その代わりしっかりと出汁をとっているので、非常に滋味深い味わいなのです。魚介系のパエリアで人気なのは、「アロス・デル・セニョレッ」と呼ばれるもの。バレンシア語で"セニョレッ"はお坊ちゃまの意味で、手を汚さずに食べられるようにエビなどの具材が細かく切られて入っています。
日本人から見たらシンプル過ぎる見た目の魚介パエリア。でも美味!
エビを剥いたり手を汚さずに食べられる"お坊ちゃまのパエリア"
バレンシアではパエリアは休日の昼食の定番。家族や友人たちが集まり、大きなパエリア鍋を囲んでわいわいといただきます。キッチンの小さなコンロでは大鍋が使えないため、専用のパエリアバーナーや庭のかまどを使います。庭や広いテラスがある家庭では、外で食べることがお約束。こういうシーンでパエリアを作るのは意外にも男性が多いんですよ。よって、パエリアは"お父さんの味"ともいえます。
バレンシアでお父さんが腕を奮う料理がパエリア
パエリアバーナーでバレンシア風パエリアの具材を炒めているところ
私の友人にもパエリア名人の男性がいて、たまに大勢を招いて20人分の大きな鍋でパエリアを炊いてくれます。もちろんバレンシア風パエリアです。オレンジやレモン、オリーブの木が茂る庭で食前のつまみから始まり、前菜、パエリア、デザート、食後酒と4~5時間かけて楽しむ休日の昼食は、まさに至福の時間です。
日本でお土産に買った前掛けでパエリアの準備をする友人
ちなみに、バレンシアではパエリアは昼食に食べるものであって夕食には食べません。郊外のパエリアレストランだと夜は営業していないことも少なくないのですが、バレンシア市内だと夜でも食べられるところがあります。
スペイン中どこでもパエリアを出すレストランはあるものの、日本人の私でも本場の味に慣れると違いを感じます。日本人が海外でお寿司を食べて「違う」と思うのに似ているかも。地元の人は「よそ(※バレンシア以外)でパエリアなんて食べないよ」と言います。そんなわけで、バレンシアではぜひとも本場のパエリアを召し上がっていただきたいです。
◆カサ・カルメラ Casa Carmela◆
1922年創業の老舗で、現在は4代目が切り盛りしています。市内では珍しく、昔ながらに薪を使ってパエリアを炊いているのがポイント。香ばしさが違うんですよね! ガラス越しにキッチンを除くと、ズラリと並んだ炎とパエリア鍋が壮観です。市内中心部からは少々離れていますが、市バス19番、31番、32番で行くことができます。食事の前か後にはビーチを散歩してみるのもいいですね。
今も薪を使ってパエリアを炊くこだわりがおいしさの理由 写真提供:Casa Carmela
明るくバレンシアらしいメインダイニング 写真提供:Casa Carmela
住所:Calle Isabel de Villena 155, Valencia
電話:+34 96-371-0073
◆ゴヤ・ギャラリー Goya Gallery◆
市内の中心部でパエリアをはじめおいしいお米料理を提供する名店ですが、1950年の創業当時はバルでした。有名な映画監督たちもよく訪れていたそうで、ベルナルド・ベルトルッチはここでも9つのアカデミー賞をとった『ラスト・エンペラー』の脚本を書いていたのだとか! その後数年の閉店期間を経て、10年前に洗練されたお米料理レストランとして再オープンしました。私の知人のグルメライターも太鼓判を押す一軒です。
香ばしさが伝わってくるバレンシア風パエリア 撮影:Paloma Agramunt 写真提供:Goya Gallery
洗練されたシックなインテリアの店内 撮影:Paloma Agramunt 写真提供:Goya Gallery
住所:Calle Burriana 3, Valencia
電話:+34 96-304-1835
香ばしい香りと出汁の旨味に包まれた、本場バレンシアのパエリア体験。ぜひスペイン旅行の思い出に加えてみてください。