
カリフォルニアのサクラメントからわずか2時間のところに、コバルトブルーに輝く透明な湖のある街ノースレイクタホがある。シエラネバダ山脈の懐に抱かれ、季節ごとに異なる表情を見せる自然豊かな場所だ。訪れたのは初夏。どんな景色に出会えるのか心躍らせながら車を走らせた。カリフォルニアのロードトリップは、この大自然とともに始まった。
「この美しい湖を上から見てみたい」―この街に足を踏み入れて、最初に向かったのはクリスタルベイエリアの湖全体を見渡せるハイキングトレイル。そこは岬に位置し、山頂まで上がると透明度の高い湖を上から一望できると知って、登ることにした。
頂上に行き着くには片道徒歩40分ほどかかる。ノースレイクタホ周辺は標高約1,800mある。カメラ機材を担ぎながら坂道の長いトレイルを登ることに少し不安になっていたが、歓声を上げて駆け上がる子どもたちが自分を抜かしていく。「子どもでも行けるなら大丈夫かな」と改めて深呼吸をして一歩を踏み出した。
トレイルはロッジポールパインと言われる背の高い松の木に囲まれ、日差しを和らげてくれる。歩きながらカリフォルニアに見られる大きい松ぼっくりを見つけたり、初めて聞く小鳥のさえずりに耳を澄ませたり、豊かな自然にリラックスして息が上がっていたのも忘れていた。
坂道を上り切ると、目の前に広がったのは、透き通った湖と雄大なシエラネバダ山脈のパノラマビュー。湖畔にはミニチュアみたいに見えるボートが気持ちよさそうに停泊しているのが見えた。「地球はやっぱり青いんだ」―この大自然を目の前にして、そう思わずにはいられなかった。
湖全体を見渡して満足すると、今度はその透明な湖の水に触れたくなってきた。クリスタルベイから湖のほとりに移動し、間近で覗き込むと、水のその透明度に感動してしまう。
そんな美しい湖で、ボートやカヤック、サップを楽しんでいる人がいる。ただ、訪れたのは6月、雪解け水が湖に流れ込むこの季節の水温はまだまだ低い。泳いでいる人もいるがさすがにこの冷たさに自分は躊躇してしまう。それでも湖上からの景色を楽しみたくて、クルーズに乗り込むことにした。
ボートのスピードが出るにつれ、湖面を滑るように進むと、岸からの景色とは異なる風景が流れていく。湖畔には、大自然の中にひっそりと立つ美しい家や公園、木の間から流れる小さな滝、20年代に建てられたティーハウスなどが見えてくる。湖は深さによって色が変わり、飽きることがない。風に乗ってくる自然の匂いと爽やかな空気が体を満たしていく。
ボートに乗り込む前に買い込んだ地元のスーパーで買ったスナックの味も、広大な湖の上だと格別に感じられる。口に頬張りながら目の前の広大な風景を楽しむと、贅沢な気持ちが増していった。ノースレイクタホは昼夜の寒暖差があり、日が暮れるにつれて空気も冷えてきたが、寒さよりも景色に見惚れてしまっていた。
ボートから岸に降りると、体が冷え切っていることに気づき、ホテルで温まることにした。湖畔から車で20分ほどの山間にひっそりと立つ、ザ・リッツカールトン・レイクタホ。天井の高いロビーの大きな窓からは外光が柔らかく差し込み、木を基調とした暖かな雰囲気で心を落ち着かせてくれる。中庭には山を見渡せるキャンプファイヤーのスペースやプールがあり自然と一体になれる贅沢な場所だ。
ここに滞在する楽しみの一つ、それはキャンプファイヤーでつくるアウトドアスイーツのスモア(焼いたマシュマロとチョコレートをビスケットやクラッカーで挟んで食べる北米発祥のデザート)を味わうひとときだ。
中庭には冷えた空気の中、キャンプファイヤーの香りが漂ってくる。火の前に座り、ゆらめく炎を眺めているとボードで冷えた体が徐々に温まってくる。さっそく、マシュマロを炙り棒に刺して火に近づけると、少しずつ溶け出し黄金色になっていく。そして、チョコレートとクラッカー、イチゴで挟むと、それはもう「スモアの女王」と呼んでも過言ではないほどの豪華なものに。
口の中でマシュマロとチョコレートの甘さが広がり、目を閉じてしばし至福の時間を味わう。種類の違うクラッカーやチョコレートを組み合わせ、色々な味を試しながら自分のお気に入りの味を探していく。
カリフォルニアワインやアラカルトなども頼んでしまったりして、心も体もすっかり温まってリラックス。カウチによりかかって空を見上げると、茜いろに染まり始めていた。
翌日、ホテルから車で20分ほどのところにあるレイククラブに立ち寄った。湖を一望できるこの場所は、森に囲まれていたホテルとは全く雰囲気が違う。5~9月のサマータイムの期間だけしか空いていないようだが、森林浴から湖水浴まで幅広く堪能できるのは魅力的。
この街を離れる前にさらに湖沿いを車で走らせていると、湖のそばで楽しんでいる人々の姿を見かけた。青空の下でフェスが開かれ、子どもから大人まで、地元の人も旅人も一体となってみんなが一緒になってライブの音に合わせて体をゆらしている。少し離れたところでは、沿岸を静かに散歩している人もいて、穏やかに過ごしている姿を見ていると心が和んでくる。
シエラネバダ山脈に囲まれた湖の開放的なこの場所で、人々は自然と心も癒されて特別な時間を過ごしているように見えた。そして、そんな人たちを眺めながら、自分もその中の一人なのだと実感した。ここを離れる最後のときまで、楽しんだレイクタホの旅だった。
<取材協力>
・カリフォルニア観光局
・ノースレイクタホ観光局
・ザ・リッツカールトン・レイクタホ
住所 : 96161 CA Truckee 13031 Ritz Carlton Highland Court