
トラベル&ライフ2025年2-3月号の巻頭特集は「絶景と豊かな文化が彩る隠岐4島 島巡り」。その中で紹介した中ノ島(海士町)にある「Entô」は、「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」に泊まれる拠点施設として2021年にリニューアルオープンしたホテル。
ジオパークとはジオ=地球、パーク=公園とを組み合わせた言葉で、地球誕生の仕組みや歴史、それらに関わる生き物の営みを知り変動し続ける地球の未来を考えることができる場所と空間のことを言う。その拠点施設とあって、館内には宿泊者以外も利用できる展示室を設け、島前・島後の大地の成り立ちや文化、芸能を紹介。さらにスタッフが周辺を案内しながら島の自然をガイドする「Entô Walk」を実施している。
ジオパークについて学べる展示室「ジオルーム ディスカバー」
隠岐ならではの景色を眺めながら寛げる「ジオラウンジ」
「Entô」はもともと国民宿舎としてスタートを切り、その後リゾートホテルに切り替わったが、施設の老朽化に伴い、ジオパークの拠点施設へと生まれ変わった。リニューアルで大切にしたのは「ジオパークを感じられる空間づくり」と話すのは、ホテルを運営する株式会社海士の代表取締役社長の青山敦士さん。
「ホテルのコンセプトに掲げているのは『シームレスとオネスト』です。ホテルのあり方や思い込みを取り払うことを目指し、私たちも"ホテルマン"というあり方にこだわらず、等身大でゲストの方々と接しています。また、旅に求められる要素のひとつに日常から離れてスイッチをオフにすることがありますので、いかにオフにできる時間を提供できるかを日々考えています」。
優しい語り口が印象的な青山敦士さん
客室は36あり、いずれも余計なものを極力排して、シンプルで落ち着いた造り。部屋の大きな窓からは約600万年前の噴火でできた島前カルデラの内湾を望み、真っ青な海と島々、そして行き交う船が織り成す景色を居ながらにして楽しめるのが魅力だ。
窓の外に広がる景色は太陽の位置や光の加減で刻々と変化するので、ただただのんびりと眺めるのもいい。何もしないという時間を持てるのも、日常を離れた旅先ならではの贅沢だ。
別館のNEST DX(Photo by Kentauros Yasunaga)
実は青山さんはホテルの運営に携わる前に海士町の観光協会で働いていた経歴を持つ。海士町をはじめとする隠岐の魅力を熟知する青山さんに隠岐の楽しみ方をうかがうと、次のように答えてくれた。
「隠岐には地球と繋がることができる感覚を味わえる場所や地球を少し理解できたと思える場所がたくさんありますので、そうした場所に行き、その感覚を体験していただきたいです。その体験を通して得た"ジオパークの視点"で他の土地も見てほしいと思っています。"なぜその土地にしかないのか"、それを語ることができるのがジオパークです。地域のそれぞれのストーリーをひもとくことができるのがジオパークの視点の面白さですから、隠岐での体験でその視点を持って帰っていただけたらうれしいですね」。
確かに"ジオパークの視点"が加わると、今まで気づかなかったことが見えてくる―。それは今回の隠岐の島巡りを通して確かに感じた面白さだ。
隠岐の島町の三大杉のひとつ・乳房杉。威厳に満ちた姿が印象的
最後に紹介するのは隠岐の島町の見どころの乳房杉(ちちすぎ)。本誌では写真を掲載できなかったので、ここではぜひその威厳ある姿を見てほしい。
乳房杉は西郷港から車で約65分の標高約608mの大満寺山にあり、岩倉神社(巨木信仰)の御神木としてあがめられている。樹齢は約800年、樹高は約40m。幹回りが約11mで、主幹は地上4~8mのところで15に分岐して上へと幹を伸ばし、それらの幹から大小24の気根が垂れ下がっている。その姿は独特で不思議な存在感があり、地元の人たちにご神木として祀られているのもうなずける。この日は、雨上がりということもあり、より一層、神秘的でもあった。