
石見神楽、石見銀山、嚴島神社など、伝統文化や歴史が脈々と受け継がれる地、広島・島根。見て、食べて、触れて、学んで、感性が豊かになる2泊3日の旅へ出かけた。非日常の景色のなかで古に思いを馳せながら、大切に語り継がれる文化を体感しよう。
1日目、萩・石見空港に到着。まず島根のグルメを味わうべく向かったのは、日本海の絶景を眺めながら絶品コースランチが楽しめるホテル&レストラン「ノラマーレ」。
いただいたのは、「ノラマーレの島根和牛プラン」(5,500円)。自家製燻製の盛り合わせ、地魚を使ったアヒージョ、石窯パエリア、島根和牛のステーキ、デザートプレート、ドリンクがセットになったボリューム満点のコースだ。
穏やかな海を眺めながらいただく、地元食材をふんだんに使った絶品料理。忙しない日常からタイムトリップしたような、ゆったりとした気持ちにさせてくれた。
お腹が満たされたら、島根県大田市にある「福光石採掘場」へ。世界遺産「石見銀山」同様に、かつて採石が盛んに行われていた歴史的な地域。ここで採掘される福光石は、凝灰岩という種類の火山性堆積岩で、やわらかく、加工のしやすさが特徴のひとつ。江戸時代には石見銀山の坑道支柱や石垣、墓石、建材などにも利用されてきたのだそう。
現在は機械で切り出しているけれど、かつては手作業。採掘場にまつわる歴史や特徴などについて歴16年ベテランガイドの案内で場内を見学した。ガイドは1組6名まで3,000円。
1日目の宿は、温泉津(ゆのつ)温泉の「寛ぎの宿 輝雲荘」へ。薬師湯からの引き湯の温泉と個室でゆったりと和懐石料理を堪能した。
夕食後、宿から徒歩5分の場所にある「龍御前神社」へ。ここでは石見神楽の夜神楽を貸切で鑑賞。神楽は古くより伝わる伝統芸能で、地域の神社で夜奉納されることも多いそう。
「神楽」とひとことで言っても、地域によってさまざまなスタイルがある。石見神楽は、島根県西部の石見地方に伝わる伝統芸能で約130の団体があり、江戸時代から庶民文化として発展してきたのだそう。神社で神々を祀るための厳かな神事として始まったけれど、この界隈では娯楽としての側面もあり、華やかな演出や観客を楽しませる工夫が施されるようになり、子どもから大人までみんなが楽しめる演目が人々を魅了している。
日本神話を題材にした演目が多く、最初に鑑賞したのは、『恵比須』という演目。 商売繁盛や豊漁を祈るこの演目で、恵比須神が福をもたらす姿を描いている。太鼓や笛などの軽快な音に合わせたコミカルな動きに、会場も笑顔に。
恵比須神が釣り上げた鯛を観客に見せたシーンは盛り上がり、明るく朗らかな雰囲気が会場を包み込んだ。
次に披露されたのは、石見神楽の代表的な演目である『大蛇』。 スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治する様子が描かれている。全長約17mもある大蛇をうまく操り、複数の大蛇が舞台中をうねり動く。客席のすぐ目の前まで迫ることも。
スサノオノミコトが剣を振るう迫力のある戦闘シーンも繰り広げられ、大蛇の大きく開いた口からは火花が散り、観客席からも歓声が上がった。
鑑賞後は演者に質問をしたり、大蛇を実際に触ってみたりと、伝統文化の豊かさを肌で感じられる特別な体験となった。地域の人たちが一丸となって盛り上げている石見神楽。親子2代、3代と受け継がれ、若い世代も多く活気ある舞台から、地域に深く根付き愛されていることがうかがえる。
神楽の後は温泉津温泉の湯に浸かり、心地よい疲れとともに余韻に浸った。
2日目は、まずは世界遺産の「石見銀山」へ。レンタサイクルで自然や古き良き町並みを堪能しながら、唯一常時公開されている坑道「龍源寺間歩」へ向かった。
古い町並みは「大森の町並み」地区と呼ばれ、江戸時代の武家屋敷や代官所跡、旧家など歴史的な建造物や文化財が立ち並んでいる。
また、銀山で亡くなった人々を供養する五百羅漢がある「羅漢寺」をはじめ、世界遺産の景色を一望できる「観世音寺」、国の重要文化財指定になっている石見銀山で栄えた豪商「熊谷家住宅」など、見どころも満載だ。
そして夜は、プライベートディナークルーズを楽しみながら洋上で特別な能楽を体験し、鑑賞。世界文化遺産である嚴島神社の大鳥居を借景に、上田宜照氏(夙川能舞台瓦照苑・能楽観世流シテ方)の舞いを堪能した。
鑑賞だけでなく、能の歴史や特徴、この日に舞う演目の概要や見どころについても、わかりやすくレクチャーしてもらった。体験の時間では貴重な面を付けさせていただいたり、演目で着用する装束を着付けして実際に刀や扇を持って舞を教えていただいたり。能鑑賞だけでは味わえない貴重な体験をすることができ、これまで遠く感じていた能の世界とぐっと距離が縮まった。
(詳細はトラベル&ライフ2025年2-3月号21~23ページをご覧ください)
能を通じて平家や宮島の歴史に思いを馳せたら、翌日は嚴島神社を参拝。世界文化遺産に登録されている嚴島神社の大鳥居は、海上に浮かぶように建てられているのが特徴だ。干潮時には鳥居の足元まで歩くことができ、間近でその壮大さを実感しながら歴史の重みを感じることができる。そして満潮時には、鳥居がまるで海に浮かんでいるように見え、神秘的な雰囲気に包まれる。
大鳥居は、社殿からだけでなく沖側から見る景色もまた違った趣がある。手漕ぎの「ろかい舟」なら大鳥居を潜ることができる。
神社の参道は、お土産店や喫茶店が並びとても賑やか。また散策中、公園や通りを歩く鹿たちに遭遇した。宮島には約500頭の鹿が生息しており、うち約200頭が街中にいるのだそう。鹿との触れ合いもまた宮島での楽しい思い出のひとつだ。
広島・島根の伝統文化や歴史を味わい尽くした3日間。美しい景色に心を動かされる瞬間、新たな学びや発見、感動は、日常に彩りを加えて人生を豊かにしてくれる。それを実感できる思い出深い旅となった。