旅する写真家のシアトル Vol.01

潮風香るアメリカ西海岸の街で
2026年01月15日
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海外旅行
旅行記

海風に乗って届く潮の香りは、初めて訪れる街の緊張を和らげてくれた。映画や雑誌でしか知らなかった米国ワシントン州シアトルの街並みが目の前に広がっている。霧雨の多い街だと勝手に思い込んでいたけれど、滞在中は天気予報が外れて晴れ間を見せてくれた。街中を通り抜ける新鮮な潮風を感じつつ、港町の時間を過ごしてきた。

高級老舗デパートでスタイリングサービス

ノードストローム

シアトルは全米で知られる老舗百貨店「ノードストローム」が誕生した場所でもある。1901年、スウェーデン移民の二人が始めた小さな靴屋は、今ではアメリカを代表する高級デパートへと成長した。気軽に入っていいものかと心配しつつ店内に足を踏み入れると、敷居の高さや規模の大きさやよりもまず、店員さんの人柄の温かさが伝わってくる。

スタイリストのサミュエル。とてもフレンドリーで親身になってファッションの相談に乗ってくれた スタイリストのサミュエル。とてもフレンドリーで親身になってファッションの相談に乗ってくれた

洗練された広い売り場で迎えてくれたのは、プロのスタイリスト。ここではファッションのエキスパートである彼らの無料スタイリングサービスを受けることができる。地元の人や旅行者にも人気と聞いて、試してみることに。

自身がモデルのようなスタイリストのジェニー(左)。元スタイリストでマネージャーのジェニファー(右) 自身がモデルのようなスタイリストのジェニー(左)。元スタイリストでマネージャーのジェニファー(右)

シックな雰囲気で絨毯の敷かれた広めのフィッティングルームに入ると、すでにいくつかの洋服や小物が並んでいた。事前に自分の好みや生活スタイルと伝えておくと、それをもとにスタイリングしてくれるのだ。

デッサンが飾られた素敵な空間。洋服から靴やアクサセリー、バッグなど、幅広く自分の好みで揃えてくれる
デッサンが飾られた素敵な空間。洋服から靴やアクサセリー、バッグなど、幅広く自分の好みで揃えてくれる

異国の地で、初めて訪れた街。それでもまるで古くからの友人に相談するかのように打ち解け、洋服選びだけでなく、クローゼットの悩みまで相談できる親密さがある。買物する時間が、誰かと対話しながら"自分を整える時間"に変わっていくような感じだった。

シアトル在住でスタイリストサービスを愛用しているシドニー。ノードストロームのショッピングバッグに囲まれて嬉しそう シアトル在住でスタイリストサービスを愛用しているシドニー。ノードストロームのショッピングバッグに囲まれて嬉しそう



代々受け継がれる牡蠣養殖のレストラン

「テイラー・シェルフィッシュ・ファーム」は通りに面していて自然光の入る明るいレストラン 「テイラー・シェルフィッシュ・ファーム」は通りに面していて自然光の入る明るいレストラン

買い物袋を片手にデパートに出て外の日差しを浴びると、お腹が空いていることに気がついた。なだらかな坂を登り向かったのは、地元で長く愛されてきた牡蠣と貝類の老舗レストラン「テイラー・シェルフィッシュ・ファーム」。1890年、現オーナーの曽祖父がシアトル南部にあるトッテン入江で牡蠣の養殖を始めたことから始まった。今では、その入江は牡蠣養殖の名産地として世界的に有名になっている。

何種類もの牡蠣を味わえる豪華なアソートプレート(左)。生のウニも新鮮で(右上)もギンダラのガスパチョスタイル(右下)の味を引き立たせるソースは最高 何種類もの牡蠣を味わえる豪華なアソートプレート(左)。生のウニも新鮮で(右上)もギンダラのガスパチョスタイル(右下)の味を引き立たせるソースは最高

レストランは海や白浜を思わせるような素敵なインテリア
レストランは海や白浜を思わせるような素敵なインテリア

店内の一角には、海の香りが満ちる生簀が並び、地元のオールドレディが夕食用の貝を買いに来ていた。観光客も地元の人のように店を訪れ海の恵みを味わえる。その光景に、この街の暮らしと自然が密接に寄り添っている感じがした。牡蠣は濃厚で海そのものをギュッと凝縮したような深い味わいだった。

店長のルイスさん。彼自ら牡蠣を割ってくれる笑顔が素敵な優しい人。彼のおすすめを食べれば間違いなし 店長のルイスさん。彼自ら牡蠣を割ってくれる笑顔が素敵な優しい人。彼のおすすめを食べれば間違いなし



シアトルの海沿いの穏やかな景色

海沿いのテラス席では近くのマーケットで食事やコーヒーを買い、くつろぐ人たちがいた 海沿いのテラス席では近くのマーケットで食事やコーヒーを買い、くつろぐ人たちがいた

お腹が満たされた後は海岸沿いを散策することに。ビルの合間を縫って海側へ出るとパッと視界が開け、街の象徴でもある大観覧車「シアトル・グレート・ウィール」や港に停泊している巨大な豪華客船、対岸のウェスト・シアトルが一望できた。

シアトル最初の入植者が降り立ったと言われるウェスト・シアトルの半島 シアトル最初の入植者が降り立ったと言われるウェスト・シアトルの半島

手前に見える遊歩道は観覧車の方まで続き、海沿いをずっと歩くことができる 手前に見える遊歩道は観覧車の方まで続き、海沿いをずっと歩くことができる

ウォーターフロントの広場では景色を眺めながらゆったりとした時間を過ごす人の姿が見えた。かつてここに高速道路が走っていたなんて信じられない。今は、地下トンネルに移行され、景色も劇的に美しくなったのだ。

海沿いで楽しめるシアトルならではのアトラクション

海辺にそびえる大観覧車の白い輪郭は美しく、どこか優雅な佇まいがある。せっかくなので、ゴンドラからシアトルを一望することに。乗り込むと、静かに高度が上がっていった。1回の乗車は15分ほどでまさかの3周。ほんの少し早めの回転に心臓が跳ねたが、子供の頃に戻ったような楽しさがある。ゴンドラの窓越しの景色はシアトルの違う表情を見せてくれた。

天気に恵まれたら青空と青い海をゴンドラから一望できる 天気に恵まれたら青空と青い海をゴンドラから一望できる

大観覧車は海に突き出した桟橋の先端に立っており、シアトルの街を海側から望む 大観覧車は海に突き出した桟橋の先端に立っており、シアトルの街を海側から望む

目下にはクルーズ船に乗ってシアトルを楽しむ人たちの姿も 目下にはクルーズ船に乗ってシアトルを楽しむ人たちの姿も

その後、隣にある「Wings Over Washington」で、ワシントン州の大地を空から旅するような4Dアトラクションを体験。まるでワシになったかのような目線で海、森、山岳地帯を立体映像として眺め、風や香り、振動まで伝わってくる。ほんの数分だったが、この州のもつ多様な自然のスケールに圧倒されてしまった。

ワクワクさせる「Wings Over Washington」のエントランス。この中では素晴らしい体験が待っている ワクワクさせる「Wings Over Washington」のエントランス。この中では素晴らしい体験が待っている

館内にはシアトルの昔の写真やワシントン州のジオラマも飾られ、歴史や地形も知ることができる 館内にはシアトルの昔の写真やワシントン州のジオラマも飾られ、歴史や地形も知ることができる



"スパイの祖父"に敬意を込めたワイナリー

「Browne Family Vinyards」のワインテイスティングルーム。グループやカップル、おひとり様も、それぞれの楽しみ方でワインを味わっていた 「Browne Family Vinyards」のワインテイスティングルーム。グループやカップル、おひとり様も、それぞれの楽しみ方でワインを味わっていた

シアトルの海の景色を堪能し、陽が傾いて海が濃い藍色に染まり始めた頃、観覧車からほど近い場所にある「Browne Family Vinyards」のワインテイスティングルームへ足を向けた。ここは、ワシントン州でも名を知られるワイナリー。フランス・ボルドーで学びワインの情熱を注いだ祖父ウィリアム・ビットナー・ブラウンに敬意を払い、2003年にアンドリュー・ブラウンが立ち上げた。

白ワイン、ロゼ、赤ワインを楽しめるテイスティングセット 白ワイン、ロゼ、赤ワインを楽しめるテイスティングセット

たった4樽のカベルネ・ソーヴィニョンから始まったワイナリーは大きく成長し、今では太平洋岸北西部でも屈指の規模を誇る生産者となっている。

スパイとして活動していたウィリアム・ビットナー・ブラウン氏の似顔絵 スパイとして活動していたウィリアム・ビットナー・ブラウン氏の似顔絵

中でも心を惹かれたのは、スパイマスター・シリーズ。第二次世界大戦中、スパイ活動をしていた祖父の人生をモチーフにしたワインで、ボトルには鉛筆画とタイプライター文字が組み合わさった素敵なデザインが施されている。

スパイマスター・シリーズのボトル。一本ずつに物語があり、まるで本が並んでいるかのようにさえ見える スパイマスター・シリーズのボトル。一本ずつに物語があり、まるで本が並んでいるかのようにさえ見える

それぞれのボトルが物語の一章のようで、一つのワインが一人の人生を語っているような深みがあった。ワインを口に含むと、果実の厚みとともに、ワイナリーに刻まれた歴史の余韻がふわりと広がっていった。

テイスティングの仕方も教えてもらえる(左上)。赤や白のみの試飲もでき、自分の好みを探せる テイスティングの仕方も教えてもらえる(左上)。赤や白のみの試飲もでき、自分の好みを探せる



包容力のあるシアトルの街並み

ワインを飲み終えた頃にはすっかり陽が落ちていた。ホテルまでの夜のシアトルの道を歩きながら、知らない場所で出会った人々や海の匂い、歴史の積み重ねが少しずつ旅の輪郭を描いていった。この町で過ごした一日は、異国で過ごす旅の緊張ではなく、優しく包み込む時間だった。ここで味わった時間や過ごした時間、シアトルという場所が、ゆっくりと心を満たしてくれるような、そんな包容力のある街だった。

ホテルまでの帰り道の景色はまるで映画のワンシーンのよう ホテルまでの帰り道の景色はまるで映画のワンシーンのよう

ホテルの部屋からは日中に乗った「シアトル・グレート・ウィール」が顔を覗かせていた ホテルの部屋からは日中に乗った「シアトル・グレート・ウィール」が顔を覗かせていた

写真・文=葛西亜理沙 コーディネーター:松田京子

<取材協力>
シアトル観光局

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