
トロッコ電車がゆっくりと進むと、乗客たちから驚きの声が上がる。これが沿線の中で最も峻険な谷、黒部峡谷の支流黒薙川に架かる後曳橋だ。高さは60m、長さ64m、そのスリリングな景観は圧巻。見下ろせば思わず後ずさりしてしまうことから、後曳橋(あとびきばし)という名前になったという。
黒部峡谷トロッコ電車は、富山県の宇奈月駅から欅平駅(※)までを結ぶ観光列車だ。そのルートの中でも後曳橋は、最もスリルがあり、見応えのあるスポットの一つだ。
※2025年は、途中の猫又駅までの折返し運行

昔の黒部橋

昔の後曳橋
長さ86km、標高差3,000mを流れ下る黒部川の上・中流域、切り立った深いV字峡を形成する黒部峡谷は、日本で最も深く大きな峡谷といわれ、長い間人が近づくことはなかった。黒部峡谷で電源開発が始められたのは大正6年(1917年)のこと。そして発電所などの建設資材運搬のために黒部峡谷鉄道が敷設された。そして昭和28年(1953年)から、観光列車としてトロッコ電車が運行されるようになった。
新山彦橋
トロッコ電車のルートは、本来宇奈月駅から欅平駅だが、今年は、昨年の能登半島地震の影響により、鐘釣駅、欅平駅への運行はしていない。宇奈月駅から猫又駅間、猫又での20分の休憩を含め往復約120分のルートには見どころがたっぷりあり、峡谷の美しさは十分に楽しめる。
宇奈月駅を出発してから最初の見どころは新山彦橋。166mと沿線内で最も長い真紅の橋は、高さは40mでスリルも満点。トロッコ電車が渡る音がやまびこになって、温泉街に響くことから、その名がついたといわれる。
うなづき湖と湖面橋
次の停車駅となる黒薙駅までは、エメラルドに輝く水を湛えたうなづき湖と湖面橋、湖上に浮かぶ新柳河原発電所、猿が対岸へ渡れるように作られた猿のつり橋など、宇奈月ダム関連の見どころが続く。
そして、プラットホームの一部が後曳橋の上にある黒薙駅へ。後曳橋は、トロッコ電車を代表する景色として、また、富山県の景勝地として知られ、観光ポスターなどにも使用されている。
猫又駅

猫又駅フォトフレーム

猫又駅展望台
黒薙駅からは、ダム施設や橋、「出し六峰(だしろっぽう)」と呼ばれる連山や「ネズミ返しの岩壁」と呼ばれる大岩壁などの景観を楽しみ、猫又駅へ。猫又駅は全国で唯一名前に「猫」がつく駅だ。猫に追われたネズミが岸壁を登れずに引き返し、また猫も同様に引き返したことから「猫又」と呼ばれているという。
通常は工事関係者専用駅なのだが、能登半島地震の影響で猫又~鐘釣間にある鐘釣橋が被害を受けたため、復旧までの間、期間限定の折返し駅として乗降可能となっている。フォトフレームで写真を撮ったり、展望台に上って黒部川の河原と滝を一望したり、思い思いの時間を楽しみたい。
また、愛猫の写真を送付すると写真・名前付きの「名誉助役任命書」と缶バッジを作成してくれるイベントも行われた。
普通客車(オープン型)
トロッコ電車の車両は、窓のない普通客車と、窓付のリラックス客車の2タイプがあるので、季節や天候に合わせて、好みの車両を選ぶとよいだろう。また、車内放送では、富山県出身の俳優室井滋さんが沿線の見どころなどを心地よい語り口で紹介。ガタゴトと進むトロッコ電車の揺れ、車窓を流れる絶景、そして今だけ訪れることのできる駅・・・。特別な黒部峡谷鉄道は、2025年11月30日まで運行している。