インバウンド消費の決済動向は?キャッシュレス対応策を考える
2019.07.10

JTB訪日旅行重点15カ国調査2019

インバウンド消費の決済動向は?キャッシュレス対応策を考える

話題のQRコード決済など、インバウンド消費での「キャッシュレス」について、国別の特徴や傾向をレポート。いま、訪日外国人向けの決済・キャッシュレスにどう対応すべきか、最新動向をもとに考えます。

目次

『JTB訪日旅行重点15カ国調査2019』について

JTBでは、『JTB訪日旅行重点15カ国調査』と題し、訪日外国人の旅マエの情報収集から行き先決定、予約、旅ナカ行動の詳細について、訪日旅行者数の多い上位15カ国・地域 (*1) の訪日旅行経験者を対象とした調査を2015年より実施しています。

訪日外国人の旅行動態を知るための調査としては、観光庁が四半期ごとに実施する『訪日外国人消費動向調査』が知られています。同調査は、訪日外国人旅行者の旅行形態、消費動向、満足度などに関するアンケートを主要空港・港ごとに実施し、20カ国別に分析を行うものです。これに対し、『JTB訪日旅行重点15カ国調査』は、旅マエのディスティネーション選定や情報収集、具体的な利用サイト・アプリなど、 “意思決定の過程” を明らかにするための、より踏み込んだ60の設問を設け、インターネット調査で回答を得たものです。

今回はこの『JTB訪日旅行重点15カ国調査2019』の中から、日本でも最近注目を集めている「決済手段」に着目して、インバウンド消費における最新の決済・キャッシュレス事情を国別に紐解きます。

(*1) 『JTB訪日旅行重点15カ国調査』の対象国は、韓国、台湾、香港、中国、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、オーストラリア の15カ国。観光庁『訪日外国人消費動向調査』は、韓国、台湾、香港、中国、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、【インド】、イギリス、ドイツ、フランス、【イタリア】、【スペイン】、【ロシア】、アメリカ、【カナダ】、オーストラリアの20カ国に「その他」を加えた21区分で、【】で示した5カ国が差分国となる。
15カ国の選定基準は、2018年度の国別訪日外国人数上位国に基づく。

なぜいま決済が注目を集めるのか?キャッシュレスとインバウンド消費の関係

はじめに、決済をめぐる日本国内の動向を簡単におさらいしておきましょう。昨年より、日本国内では、「PayPay」や「LINE Pay」など、キャッシュレス決済が注目を集めています。キャッシュレスとは「物理的な現金(紙幣・硬貨)を使用しなくても活動できる状態」(*2)のこと。背景にあるのは、経済産業省が2018年4月に発表した『キャッシュレス・ビジョン』の中で、2025年にキャッシュレス比率を40%、将来的には80%まで高める方針を打ち出したことに起因します。

(*2) 経済産業省『キャッシュレス・ビジョン』での定義

日本のキャッシュレス決済比率(2015年)は18.4%。これに対し、諸外国は韓国89.1%、中国60.0%、アメリカ45.0%と、高い比率でキャッシュレス決済が普及しています。さらに、201910月に予定されている消費税率引上げに伴う需要平準化対策として、キャッシュレス利用によるポイント還元も決定しており、導入コストや決済手数料面で加盟店の負担の大きいクレジットカードやFeliCaなどの非接触型決済でなく、カメラ付きのスマホ1台があれば安価に導入ができるQRコード決済などが注目を集めているというわけです。

大手コンビニチェーンは、多様な決済サービスを受け付ける

キャッシュレスの種類

このキャッシュレス化の流れは、インバウンドをはじめとする観光産業とも切っても切れない関係にあります。政府が打ち出したキャッシュレス推進の背景には、 2020年の東京オリンピック・パラリンピック、さらには2025年の大阪・関西万博を前に、『明日の日本を支える観光ビジョン』で掲げられた政府目標(訪日外国人旅行消費額=20208兆円、203015兆円)達成のためにはキャッシュレスの推進が不可欠とされています。訪日外国人旅行者がストレスなく観光し、消費機会を逸失しないためにも、受入環境としてのキャッシュレス決済を浸透させていきたい思惑があるのです。


『15カ国調査』の結果から、主要15カ国の国別決済のトレンドを読み解こう

さて、『JTB訪日旅行重点15カ国調査2019』では、日本滞在中、買い物に使用した決済手段について、訪日市場主要15カ国別に調査を行っています。設問項目は以下の通りです。


【Q55】 日本滞在中、大人一人当たりの買い物にかかった費用の決済手段の内訳は?(足して100になるように割合を数字で入力)
区分:現金/クレジットカード/モバイル決済/デビットカード(銀聯カードなど)/その他の決済方法




それでは、地域別に訪日旅行中に利用する「決済手段」について、調査結果の特徴をみてみましょう。

 

現金割合が6割と高い韓国・台湾・香港、モバイル決済比率は5%未満

まず、現金利用率が最も高いのが、韓国、台湾、香港という中国を除く東アジアの国・地域で、「現金」での買い物割合が決済全体の6割を占めます。続いて「クレジットカードが」が34割、「デビッドカード」「モバイル決済」の比率は約5%未満と15カ国の中でも特に低い傾向にあります。

訪日旅行中買い物で使用されている決済(※中国を除く東アジア)

台湾がもともと国内でキャッシュレス浸透率が低いのに対し、前述の通り韓国は、国内キャッシュレス比率が9割のキャッシュレス先進国です。その手段は「クレジットカード」が担うところが大きい(*3)のですが、訪日旅行に際しては現金利用率が15カ国の中でも最も高い結果となりました。

これは、観光庁の『訪日外国人消費動向調査』の中でも同様の傾向を示す結果が出ています。『JTB訪日旅行重点15カ国調査2019』と同調査時期の2019年1~3月期の1次速報値(*4)では、韓国人が日本滞在中に利用した決済方法(本調査は、百分率比率の回答でなく複数回答(MA)式)として「現金」91.5%、「クレジットカード」64.4%と、他の先進諸国と比べても現金割合が高く、クレジットカード利用率は必ずしも高い数値ではありません。

背景には、リピート割合が高くよりコアなスポットを訪れるがゆえ結局現金が必要になること、滞在期間が短い中でまとまった額を両替し、そのなかでやり繰りしているなどの理由が考えられます。

(*3) 経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」(2018年4月)
(*4) 観光庁「訪日外国人消費動向調査」(2019年1月~3月期)1次速報・集計結果

モバイル決済の割合が高い東南アジア、特にインドネシア・ベトナムは10%以上

次に、東南アジアの国々を見てみましょう。東アジアと比べ新興国が多く、近年、日本同様政府主導のキャッシュレス化が推進されている東南アジアでは、与信の必要な「クレジットカード決済」の割合が、東アジアの国・地域より低い傾向にある反面、「モバイル決済」の割合が5~15%と高い傾向にあります。特にモバイル決済が占める割合が高いのは、インドネシア13.4%、次いでベトナム10.5%です。

モバイル決済の普及は、銀行口座の保有率と関係があります。東南アジアの中でも国民の銀行口座の保有率が80%を超える、シンガポール、タイ、マレーシア(*5)が、クレジットカード利用率が高く、モバイル決済の利用が相対的に低調なのに対し、銀行口座保有率の低いインドネシア、ベトナム、フィリピンでは代替手段としてモバイル決済取引がより活発です。

(*5) GloTech Trends

訪日旅行中買い物で使用されている決済(※東南アジア)

東南アジアのモバイル決済事業者としては、タイの「PromptPay」、シンガポールの「PayLah!」、インドネシア「Go-Pay」などが存在します。さらにここへ、タイやインドネシア、ベトナムでもメッセージアプリとして普及しているLINEの「LINE Pay」、さらに中国の2強、アント・ファイナンシャルが運営する「アリペイ」とテンセントが運営する「WeChatペイ」も現地のファイナンシャル・グループと提携を強めながら参入を強化しています。

東南アジアからの訪日旅行者が日本国内で利用しているモバイル決済は、東南アジア資本の決済ではなく、主に日本国内で普及が進んでいる「LINE Pay」や「アリペイ」「WeChatペイ」を使用したもので、LNE Payや中国系のモバイル決済に対応することは、日本人や中国人旅行者のみならず、6億5000万人といわれる東南アジア市場を取り込むきっかけにもなるといえるのです。

ユーロモニターの予測では、東南アジアのモバイル決済市場は、2021年には320億USD(約3兆5000億円)に達するとされています(*6) 。2018年10月からのASEAN加盟全10カ国に対する観光ビザ免除の流れの中で、東南アジア諸国からのインバウンド消費を取り込むために「モバイル決済」は一つのカギになりそうです。

(*6) Euromonitor 「Asia Pacific Payscape 2021 」

クレジットカード利用が現金より重要な欧米豪市場

次に、欧米豪市場についてみていきましょう。こちらも、アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス、ドイツの5カ国で類似したトレンドが見られ、「クレジットカード」が占める割合が45割と高く、「現金」と同等かそれ以上にクレジットカードが重用されていることが明らかになりました。特にクレジットカード比率が高いのが、クレジットカード大国アメリカで50.4%、ドイツ45.2%、フランス40.6%と続き、現金割合の低さは東アジア諸国と比べると1020ポイントの開きがみられます。

一方でモバイル決済の占める割合はドイツが8.3%と比較的高いものの、それ以外の国では5%ほどにとどまっています。クレジットカードやPayPalなどのペイロールカードの普及が進む欧米諸国では、あえてモバイル決済を利用する必要性が低く、訪日旅行消費においてもその傾向が見られます。

訪日旅行中買い物で使用されている決済(※欧米豪)

また、金融大国イギリスやかつてはキャッシュレス後進国といわれたドイツでもキャッシュレス化は進んでいます。クレジットカード・デビットカードの多くは非接触対応で、Apple PayGoogle Payなどに対応しています。さらに若者を中心に、カード発行から与信、振込・送金といった銀行業務を、全てモバイルアプリ上で提供する次世代銀行「ネオバンク」「チャレンジャーバンク」の存在も大きくなりつつあります。アプリ上から購入履歴も閲覧もできるなどFinTech(フィンテック)の機能も備えつつ、Apple PayGoogle Payにカード登録をすることで、モバイル決済にも対応しています。

現金・クレジットカード・モバイル決済が拮抗し多様化する中国人の決済

最後に、インバウンド旅行消費額の突出している中国人旅行者の利用する決済手段についてみていきましょう。これまで見た、東アジア、東南アジア、欧米豪と比べても、中国は非常に特異で、「クレジットカード」が33.5%と最も高い反面、続く「現金」26.8%、「モバイル決済」25.4%3決済手段が拮抗します。

まず、中国では国外に持ち出せる現金に規制がかけられており(人民元2万元(30万円)、または外貨5,000米ドル(50万円)相当額まで)、必然的に「現金」以外の決済手段が選ばれる傾向にあります。ただし、観光庁『訪日外国人旅行者消費動向調査』の結果を合わせみると、現金が使われていないわけではなく(201913月期の訪日中国人の現金使用割合は88.0%で、この数字は欧米豪諸国の使用割合より高い)、相対的に 現金以外の決済手段が併用される傾向にあると捉えるのが正しいといえるでしょう。

次に、利用比率が最も高い「クレジットカード」ですが、与信制度が整っていない中国では、クレジットカードを持つことのできるのは一部の富裕層に限られます。本調査で明らかになったクレジットカード利用者は、「所得水準の高い富裕層」と置き換えることができるでしょう。クレジットカードブランドとしては、デビットカードで知られる「銀聯カード」のクレジットカード版がメイン。銀聯カードは、発行枚数10億枚、今やVISAに続く世界2位のカードブランドです。

そして、「モバイル決済」分野では、銀聯カードも非接触ICの「闪付(Quick Pass)」サービスを行っていますが、日本の昨今の ”QRコード決済祭り同様、店舗側の導入コストの問題を解決するコード決済方式の「アリペイ」「WeChatペイ」が主流で、日本国内でも導入が進んでいます。

訪日旅行中買い物で使用されている決済(※中国を含む15カ国)

あらためて、訪日旅行における買い物消費額を国別見た場合、「爆買いブーム」が過ぎ去ったとはいえ、中国人旅行者の消費額は突出しています。そのなかで、より多くのインバウンド消費を取り込むためには、中国式のクレジットカードやモバイル決済に対応することは必須といえるでしょう。

訪日旅行中買い物支出金額

キャッシュレス化に対して、インバウンド観光事業者はどう対応すべきか

さて、ここまでの調査結果をもとに、インバウンド観光事業者は「決済」にどう向き合うべきかを考えてみましょう。

まず、調査結果からは、ターゲットとする市場によって対応すべき決済手段が異なることがわかります。世界的にキャッシュレスの流れが進む中、欧米豪であれば現在の主流は「クレジットカード」、東南アジアの新興国では「モバイル決済」、合計すると訪日外国人数の半数を占める韓国・台湾・香港については当面「現金」主流の流れが続くかもしれません。
消費額の突出する「中国」は、富裕層には「クレジットカード」が利用されているものの今後拡大が見込まれる中間層では「モバイル決済」「デビットカード」が決済のメインプレイヤーとなりつつあります。

また、FinTechの活用が進む中、「モバイル決済」自体はクレジットカードやデビットカードに付加するサービスとして、今後ますます拡大が見込まれます。一方で、各国で複数の決済事業者がプレイヤーとして乱立する中、今後淘汰も見込まれ、しばらくは注視が必要といえます。ただその中でも、中国、さらに東南アジアへの攻勢を強めている「アリペイ」「WeChatペイ」の2強については、すでに多くの利用者を抱える基幹ブランドとなりつつあります。

JTBでは中国で6億人が利用するモバイル決済「アリペイ」の導入支援サービスも行っています。導入に必要なのは、iPhoneiPadiOS端末)のみで、初期費用や月額利用料は不要。申し込みや精算はJTBを通じて行い、問い合わせには契約店向けコールセンターが対応するので、サポート体制も万全です。



JTB訪日旅行重点15カ国調査』では、国別だけでなく、性別・年代別の決済手段の利用率も算出しており、東南アジアのミレニアル層など、今後訪日マーケットで重要度が増すセグメントの決済動向なども把握できます。調査内容に関するお問い合わせは、JTB訪日インバウンド推進部までご連絡ください。

調査概要

調査手法
WEBアンケート調査
対象エリア
台湾、韓国、中国、香港、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス、ドイツの15カ国
調査対象者
以下のスクリーニング条件に適合する各国20歳以上の男女
※性・年齢間のサンプル割付は行っておらず出現率ベースとなる

スクリーニング条件
■東アジア / 台湾・韓国・中国・香港:1年以内訪日経験者
■東南アジア/タイ・ベトナム:1年以内訪日経験者
      シンガポール・マレーシア・インドネシア・フィリピン:2年以内訪日経験者
■欧米豪/アメリカ・オーストラリア・イギリス・フランス・ドイツ:3年以内訪日経験者
調査期間
2019年2月27日~3月11日
サンプル数
各国400サンプル
利用パネル
GMOリサーチ

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