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ペッチョリ滞在記
久保 智子
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ペッチョリ滞在記の写真  2004年に、街の端の廃屋となった農家を中心に、野外円形劇場を作り、今でも夏のイベントの場となっている。7月に入ると、夜にミュージカルやオペラなどの公演がある。私もこのイベントを鑑賞した。街の人々が集結しているかのように、初日に洋服を購入した店のお姉さんや、バールの奥さんなど、見覚えのある顔ぶれがそろっていた。つまりこの場所は、ペッチョリ市民にとって交流の場であり、そこが夏の夜を楽しむ場所であると実感した。
 大変な面もあった。イタリア人の中で、イタリア語を使って生活することが初めてであった私は、次第にみんなの話しを聞いているだけになってしまった。昼食の時も自分から会話を持ちかけることもできず、みんなの間を飛び交う単語を目で追うかのような日々だった。彼らはそんな私を気遣って、または彼らの持ち前の好奇心からか、根気強くゆっくりと分かりやすく、街のことや彼らの家族のことを話してくれた。それからペッチョリの方言も教えてくれた。手探りで始まった滞在もあっと言う間に12日間が過ぎ、気づくと彼らにも街にもとけ込むことができ、たわいない話をする余裕も生まれていた。
 この滞在を通して初めて、そこに住む人たちの生活の風を感じる経験ができた。それは私にとって、全く違う生活スタイルを持った人々との交流であった。小さな街だからこそ人々の顔が見え、すぐに顔なじみになれる。地球の裏側から突如やってきた日本人を受け入れてくれる温かさをもったこの街が大好きになった。だが、日本に興味を持って話しかけてくれる人たちに、満足な答えができなかったことが悔やまれた。
 また、過疎に悩む農村部が、自分達の手で街に賑わいを取り戻そうとする試みを間近で見ることができたことも、何よりの経験となった。私は彼らの街おこしの手法に関心を持ち調査を行うため、今年の夏もこの街を訪れた。変わらないzzzzzz街、変わらない顔ぶれ、1年ぶりに出会うペッチョリは温かく私を迎えてくれているように感じた。誰も知らzない街に、イタリア語も十分に話せない中で不安を抱えて到着したあの日、ペッチョリの人々とこんな関係を築くことができるとは思ってもみなかった。今年も彼らは、忙しい中、私を昼食に招待してくれたり、様々な資料を提供してくれたりした。
 初めてインターネットでペッチョリを見たあの日、私の目には小さな街に映った。しかし交流を通した現在、ペッチョリは魅力の詰まった大きな街に映る。



評価のポイント
イタリア・トスカーナ州の農村ペッチョリを舞台に、地元の人々との交流によって変化する心の動きを綴っている。アグリツーリズモ(農場滞在型観光)の魅力を伝えている作品。

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※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。