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北スペイン・信州そば紀行
山崎 良弘
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4 3ヶ月後再びスペインへ… ついに実現! “信州そば祭り in スペイン”
 10月の「一つの花フェスティバル」には、日本とスペインの一流の音楽家らによるコンサートが組まれており、日本からも大勢の参加者が期待されていた。我々4名のそば打ちの役割は、最終日の14日にエル・カプリッチョ・デ・ガウディで開催される「信州そば&日本の食祭り」で、スペイン産の信州そば粉で打ったそばと日本食を振る舞うことだ。我々のスペインでのソバの種蒔きのニュースは、信州の地元でも大きく取り上げられたこともあり、“一つの花フェスティバルへの参加とスペイン産の信州そばを食べるツアー”を募集したところ、そば粉が取れる保証がないにもかかわらず、長野県を中心に全国から30名の参加申し込みがあった。
 一方、スペインのソバ畑の様子はメールで逐次最新画像を送ってくれたので、順調な成長ぶりには安心していた。最も心配だったのは刈り取り、脱穀、選別、乾燥までは、それぞれ現地で行ってもらわなければならなかったことだが、取りあえずメールによる遠隔指示で、10月初旬までにはすべて刈り取ってもらっておいた。
 かくして10月9日、我々4名は再びスペインの土を踏んだ。フェスティバル前の一番大事な仕事が待っていた。収穫されたソバの実の製粉だ。そば粉にできなければそば祭りどころではない。近隣の村々を尋ね回って、かろうじて古びた水車小屋の石臼で製粉してもらうことができた。
 10月14日、場所は緑溢れる貴族の村と言われるコミージャスの高級レストラン、エル・カプリッチョ・デ・ガウディ。いよいよ晴れの舞台だ。日本からツアーで参加の人たちには、日本の庶民の食として、おにぎり、のり巻き、稲荷寿司、チラシ寿司を作ってもらうように、あらかじめお願いしてあった。食祭りの参加人数は120名とのこと。そのために日本から一人1kgの米の他、海苔、寿司酢など、相当量の食材や日本酒などを持ち寄ってもらった。皆快く引き受けてくれた。むしろ、そのことを楽しみにしてくれていた。
 予定の午後1時頃から地元の招待者が集まって来た。SOBA村のフリアン村長さんや、7月のソバの種蒔きでお世話になった各村の村人たち、州政府の農政部長さんらも来てくれた。そば打ち台では2005年度第10代そば打ち名人の赤羽章司さんが大勢に取り囲まれてそばを打ち、日本からのツアー参加者の中では、津軽三味線の名手がじょんがら節を奏で、女性は着物姿で華やかな日本情緒を醸し出し、安曇野の吟遊詩人と言われる手仕事屋きち兵衛さんが自作の曲や日本の唱歌を歌い、折り紙を教える人や日本酒やおにぎりを勧める人など、皆の顔が生き生きと輝いて見えた。
 1時間ほど経ったところで、いよいよそばの試食会が始まった。実は、前日はカプリッチョで日西合作特別メニューとして、コース料理の中に「そばサラダ」と「ザルそば」を入れたのだが、ザルそばの冷たい食感に少し抵抗があるらしく、評価が芳しくなかったので、このそば祭りでは温かい「かけそば」にして出すことにした。人数分以上出しても、後から後からお代わりの請求が来る。うれしい悲鳴だ。スペイン人からも日本人からも口々に「美味しい、美味しい!」との声がかかる。今までの苦労が報われた。そして、スペインで、新しい日本食としての可能性が見えたような気がした。


5 最後に
 ひょんなことからスペインで日本のソバの栽培などという途方もないことをやってしまった。この話に日本とスペインで大勢の人たちが乗り、関わり、動いてくれた。皆に共通するのは、ひとことで言えば、自分が生まれ育ったふる里を愛し、その繁栄を願う気持ちではないかと思う。カンタブリア州農林水産大臣と面談した折、来年には日本に技術者を研修に出したいとも言われた。ナッチョさん、マリーサさんも来年日本への旅行を計画していると言う。信州のソバの種が、日本とスペインの新たなる交流の種となった。今回種蒔きをした4か所には、来年用に2世の種を残して来た。今後このスペインで、信州の蕎麦が食文化として、そして農業としてどのような道を歩むことになるのか楽しみだ。特に若者が村を離れ過疎が進むSOBA村が、いつかスペインの蕎麦の聖地となり、収穫期にはそば祭りが開催されるようになり、そして日本からこのSOBA村へと、大勢のツアー客が押し寄せて来るなどという夢が実現することを願って止まない。



評価のポイント
 友人からの誘いで行くことになったスペインの「一つの花フェスティバル」でのそば打ち。地元の方々との交流やSOBA村の発見、そしてフェスティバルでのソバ打ちと、ダイナミックな展開と内容を評価。

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※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。