interview人はなぜ旅に出るのか?沢木耕太郎
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偶然目にした赤茶けた大地が、僕をさらに遠くへと導いた

旅に憧れるすべての人にとって、沢木耕太郎さんは特別の存在ではないだろうか。「深夜特急」は刊行当時から今に至るまで旅への思い、旅への想像力をかき立ててくれる。沢木さんにあらためて旅の魅力について語っていただいた。

どんなに情報量が多くても。たとえ3D映像だったとしても

よく言われることだが、インターネットの普及により、ひと昔前に比べると格段に外国に関する情報量が増えた。少し検索するだけで、聞いたこともないような外国の街の情報が瞬時に手に入る、場合によってはご丁寧に動画付きで。そしてまた、ブログなど個人が表現する場が大幅に拡大したため、いまではインターネット上にごく普通の人の海外旅行の日記や体験記などがあふれている。しかし必ずしもそれが旅行者数と比例していない。

「自己表現をする機会が増えたことは悪いことではないし、たまに閲覧するとみんな文章も写真も上手になってきていますね。ただ、それが世の中一般の人に対して本当に提出できるクオリティになっているかというとなかなか難しい。それから、そこに表現されている経験自体が極端なことだったり、人とは変わったことだったりしたとしても、それで人を動かすことはできないと僕は思う。人を動かせるかどうかというのは表現の力や質の問題であって、大げさにいえば人間の力量と比例します。だから旅によって人間としての力量が増していけば、表現の質も上がっていくでしょう」

インターネットだけではない。いまの世の中、テレビをつけると外国を取り上げたバラエティー番組などが日常的に放映されている。見ているだけでそこへ行きたくなりそうなものだが、どうもそんな単純なことではないらしい。

「たとえ3D映像だったとしても、テレビである以上、実はそれは立体的ではない。フラットです。単なるフラットな画面一枚では人を動かすことはできないのではないかと思います。そのフラットな画面を立体的にするのは経験なんですよ。たとえばベネチアの映像を見ているとして、実際にベネチアに行ったことがなくても、どこかの旅を経験したことがあれば、そのときの経験から取り出してくるものを、いま見ているベネチアの映像へ映し込んで立体的にしていくことができる。平面を立体にしていくためには、それをするための一回の経験というものが必要なのではないでしょうか」

最初の一歩。その旅の契機となるものは、何なのだろう。海外を旅したことのある人はいちど思い返してみてほしい。自分の旅の契機は何だっただろう、と。それは1冊の本だったかもしれないし、1本の映画だったかもしれない、だれかから聞いた話だったかもしれない。もしかすると最初は自分の意思ですらなく、行きがかり上やむを得ず海を渡ったということかもしれない。

「自分の思いによって、あるいは経験によって、あるいは未知に対する憧れによって、映像ではなく立体的な深みをもったところに自分の身を置いてみたいという思いが生まれたとき。それが楽しいことになるのか、がっかりするのか全然分からないけれど、とにかくそういうふうに身を置きたいという思いが生まれたときに、きっと人は旅に出るのではないかな」

(2012年1月 取材・文: 編集部)

プロフィール

沢木耕太郎(さわき・こうたろう)
1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業後、ルポライターとして活動を始める。「防人のブルース」でデビュー。79年に「テロルの決算」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。82年「一瞬の夏」で新田次郎文学賞、85年「バーボン・ストリート」で講談社エッセイ賞、「深夜特急 第三便」でJTB紀行文学賞、06年「」で講談社ノンフィクション賞を受賞。86年から刊行された「深夜特急」は、いまなお旅人たちの力強い支持を受けている。08年「深夜特急」の最終便ともいえる〈旅〉論エッセイ「旅する力」を刊行。「深夜特急」ファンの注目を集めた。

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