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JTB交流文化賞

第12回受賞作品発表

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交流文化賞 一般体験部門

第9回 JTB交流文化賞 受賞作品

優秀賞

ラウフォート

宮本 知明

「ミヤモト、知っているか?ヨーロッパにはこういう諺がある。スピード違反で捕まりたくなければドイツへ行けってね。」

ドイツ人の友人ヤンは、そう言うと、ハイウエイを時速170キロでぶっ飛ばし始めた。ふと、追い越し車線を見ると、時速200キロは出ているであろうベンツが、空気との摩擦音を残しながら、他の車をどんどん追い抜いている。このまま未来へタイムスリップしてしまうかもしれない。思わず苦笑いをしながらそんな妄想に浸っていると、ヤンは神妙に話し始めた。
「そうだ。まだ伝えていないことがあった。今回の仕事の主催者のミセス・モンチェだけど、医者からはあと1年しか生きられないと言われている。彼女はパーキンソン病にかかってしまってね。今回会えるのが最後かもしれないからおれも来たんだよ。」

私はジャグリングショーを観客の前で行う、パフォーマーの仕事をしている。ヤンとはタイのフェスティバルで一緒になったが、それがきっかけで今回ドイツとオランダでショーをすることになった。

ドイツでの仕事は最高だった。バンベルグという地方都市で美しい街並みを舞台に、ヨーロッパ中から集まった観客の前でショーをして、感無量の思いに浸ることができた。その後、ヤンと合流し、次の仕事場であるオランダへ車で向かうことになったのである。主催者のミセス・モンチェとはメールで何度かやりとりしていたが、まさかそんな境遇にあるとは夢にも思わなかった。車がドイツとオランダの国境を越える頃、気づけば速度は100キロ前後へ落ちていた。
「ここは、もうドイツじゃないからね。」
二人を乗せた車は、オランダの首都アムステルダムから10キロほど離れた町ラウフォートへ向かった…。

それから3時間ほど経った頃だろうか。大きな看板の文字が目に飛び込んできた。アムステルダムだ! 学生時代に来て以来実に13年ぶりだったが街並みはなんとなく覚えている。でも、今回降りる場所はここじゃない。地図を見ながら目的地に向かうと、辺り一面工場が立ち並ぶ人工的な風景が見えてきた。オイル、ガスなどの巨大なプラントも立ち並んでいる。もうそろそろのはずなのだが、本当にこんな所に町があるのだろうか?
「あった!ここだ!」
ヤンは突然右折し、200メートル位進むと、駐車場が見えてきた。そして車を止めるとヤンはにっこりと笑って言った。
「ようこそ、ラウフォートへ!」

私は風景を見て愕然とした。なんだここは! そこは別世界だった。まるで廃墟と化した遊園地のような眺めで、年季の入ったサーカステント、子供のいたずら書きのような巨大な絵、そして軽食が手軽に買える移動販売車が至る所に立ち並んでいる。人々は壊れかけた木の椅子に座りながら、日光浴と食事と、たわいもない会話を楽しんでいる。約100平方キロメートルの巨大な工場地帯の真ん中に、異世界な町が広がり、それを象徴するかのような古い教会が町の中心にそびえ立っている。私が唖然として、風景を眺めていると、ヤンが声を掛けてきた。
「ミヤモト、こっちへ。」
そこには車いすに座った白髪の女性が佇んでいた。
「こんにちは。モンチェです。日本からわざわざお越し頂きありがとう。ここにいる人は皆楽しい人たちばかりだから、あなたも楽しんでいってね。」
この方がモンチェさんか。40代半ばと聞いていたが、やはり病気の影響か、外見上は60代ほどに見える。だが、彼女の目はとても若く、病人には全く見えなかった。それどころか、主催者としてこのフェスティバルを成功させようという責任感と、熱い情熱が全身からほとばしるような力強い人物だった。
 メールでしかやり取りをしたことのない人物と初めて出会い、またその人が不治の病を抱えている。こんな経験は初めてだったし、とても悲しい気持ちになった。彼女は皆に慕われ、出会った人に大きなパワーを与えられる人だった。この方の為にも良いショーをしようと私は心に誓った。

ヨーロッパ北部の夏は昼が長い。朝の4時位に日が昇り、暗くなるのは、夜の10時位だ。
だから日本の感覚でいると、寝るのを忘れてしまうことがある。そういえばどこに寝泊まりするのかなあと思っていると、ヤンは車のトランクから大きな荷物を取り出し始めた。
「何だい、それは?。」
「テントだよ。」
彼は、アウトドアの達人で、あっという間に四人位は寝られるような大型のテントを立ててしまった。周りに無数のテントが立ち並んでいたので、なんとなく分かってはいたのだが、本当にここで寝るのか・・・。しかも、今日は月曜日で、ショーを行うのは日曜日だ。途方も無く長い。しかし、私は眠かったので、とりあえず用意されたブランケットで寝ることにした。

えらい所へ来てしまったもんだ。目をつぶりながら考えた。ドイツのバンベルクでは、三ツ星ホテル、個室、ベット、ユニットバスの環境だったのに、今は、テント暮らし、屋外シャワー、トイレ共同、貴重品は肌身離さずの境遇だ。衛生面でもあまり綺麗だとは言えない。今振り返ってみると、私はヨーロッパの二つの両極端なフェスティバルに参加したんだと思う。正直最初はそのギャップに参っていた。

でも人間の習性能力とは見上げたもので、それ以降はその環境に慣れてしまった。それどころか、オランダ、フランス、ドイツ、ベルギー、スイスなど、多方面から集まった人たちとの交流が実に面白く、テント暮らしも味わい深いものになっていった。時には、サッカーやバドミントン、そしてジャグリングを一緒に楽しみ、時には、露店の店主さん達と商売について語り合い、時には野外ステージや教会内で行われる音楽ライブで、ヘッドバンキングをしながらダンスを踊ったりもした。その中で何故か印象に残っているのは、ニワトリの鳴き声について語り合った時間だ。

「フランスでは、ニワトリはコッコココーと鳴くんだが、日本では何て鳴くんだ?」
「コケコッコーだよ。」
「そっくりじゃね〜か!」
お互いのハイタッチが響く。そこへヤンが通りかかった。
「おい、ドイツではニワトリの鳴き声は何て言うんだ?」
「キッキキキーだ。」
皆大笑いだった。
「英語ではクックドゥルルーだろ。フランスと日本が一番本物に近いなあ。」
陽気なフランス人親子と話しているうちに気付けばニワトリの鳴き声の話だけで一時間も経ってしまったのはよく覚えている。

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