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大地の芸術祭〜越後妻有アートトリエンナーレ
「車座おにぎり」で、笑顔といのちにつながる旅

小高 朋子
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(イメージ)

大きな釜の蓋をあけると「ふわっ」と立ちこめる湯気。ふっくら、ツヤツヤのコシヒカリだ。『四升もあればいいかねぇ?120個位握れば足りるかぁ?』これは、ほんの一時間前の会話。ちょっとつまみ食いをしてみる。この炊きたてがまた美味しい!「美味しい!本当に美味しいですねぇ。お米の味が濃い!」『そうかぁ?この辺で作ったお米だからね。たくさん炊くと、また美味しいからねぇ。東京じゃこんなに炊かないでしょう?』新潟県の中山間部、越後妻有は棚田がどこまでも続く美しい日本の原風景。棚田で採れたお米は山からの栄養をたっぷりと含んでいる。きれいなお水で育ったお米は、きれいな味のお米になると聞いた事がある。お米そのものが持つ力強い味だ。天日で干された四升のお米が“特別なおにぎり"になる。


■棚田の里で「奇跡のおにぎり」に出会う
私は今、新潟で3年に1度開催される「大地の芸術祭」に来ている。単なる旅人としてではなく、ボランティアとしてお手伝いをしたくてやってきた。「大地の芸術祭」は、東京都23区ほどもある広大な越後妻有地方に点在したアート作品を、スタンプラリーで巡る一風変わった芸術祭である。もちろん、私はアートも旅も大好き。しかし私が、この土地に惹かれ一番関心をおぼえた理由は、なにより『食』だった。

新潟と言えば、日本一の米どころ。お米も日本酒も大好物の私には特別な聖地だ。私の「大地の芸術祭」は、初夏に越後妻有の棚田で田植えをすることからはじまった。その土地のひとが愛情込めてつくるモノづくりの良さを知るには、一緒に体を動かして働くのが一番である。たった一日の農作業でも、手仕事の大変さが体感できる。そして仕事のあとのご飯の美味しさに驚く。自然と人がつながって生きることの大切さを、身をもって知ることができるのだ。忘れかけていた郷里を愛する心や、地域の人々で助け合い分かち合う喜びがよみがえる。旅先で昔ながらの「日本の食と暮らし」に出会う。その楽しさ素晴らしさを、ネットやイベントを通じて、ひとりでも多くの人に知ってもらう。それこそが私のライフワークだ。

■いつでも誰でもどこでも出来る「現代アート」=「車座おにぎり」
(イメージ) 芸術祭の数ある作品やイベントの中で、とにかく気になっていたのは「車座おにぎり」。地元のお母さんたちが手塩にかけたおにぎりを、「車座」になっていただくだけの催しだ。しかし、その中にこそ、私たちが見失った「幸せに生きるためのヒント」がある気がした。「普通の暮らし」の中にこそ「特別な喜び」がある。そんな直感から「車座おにぎり」の運営ボランティアへの参加を決めたのだった。「車座おにぎり」は、日によって異なる集落で開催される。ホームページでも告知されるが、アート作品を見に来て、偶然、気付いて参加する人も多い。そこで、「車座おにぎり」は、目印の赤いのぼりを立ててお知らせする事からはじまる。赤いのぼりを見て集まった人たちを“おにぎり”でおもてなしする。このイベントには、集落のお母さんたちの協力が絶対に欠かせない。おにぎりを作るためのお米も、手間も、会場のセッティングも、文字通りお母さんたちの手弁当だからだ。芸術祭に遊びに外から来た人たちを、何の見返りもなく“おにぎり”でおもてなしをしようという、心づくしのイベントなのだ。本当にそんなイベントが成立するのかと、私は半信半疑だった。しかし、地元のお母さんたちの笑顔を見たら、そんな気持ちは吹っ飛んでしまった。ここにいるお母さんたちは、都会の人たちのように、ちっぽけな私利私欲や損得勘定では動いていなかった。自分たちの村に人が集まってくれるなら、ただただ美味しいおにぎりを食べさせてあげたい。朝採れた新鮮なトマトを、スイカを、自家製のキュウリの漬け物も、たくさん食べさせてあげたい。そんな純粋な思いだけが、笑顔からあふれていた。正午近く、赤いのぼりを目印に少しずつ集まり始めた。ひとりで来た人、親子で、恋人同士でと、皆それぞれだ。会場となる景色のいい広場。ゴザの上にあがり車座になって腰をおろすと、お互い誰からともなく「どちらからですか?」「いつからいらしてるのですか?」などと会話がはじまる。車座だからこそ、お互いの顔がよく見わたせる。普段こんなに多くの初対面の人と顔を見合わせる機会はあまりない。都会では、たまたま居合わせた隣の人と会話を楽しむ姿はほとんど見かけない。それなのに、ここでは会話をしない方が不自然に思えてしまうから不思議だ。

そんな和やかな空気と笑顔の中、お母さんたちが心を込めて握ったばかりの“おにぎり”を持って、車座の中に入って来た。『お待たせしましたねぇ。どうぞ〜、たくさん食べてって。』「わぁ!!」喜びの声と拍手がわき起こる。「いただきます」の声がこだまする。「美味しい、美味しい!最高!」「お米が全然違う!」おにぎりを頬張ると、思い思いの言葉が自然に出てくる。 お母さんたちの握ってくれた、心のこもったおにぎりのなんと美味しいこと!世界で一番美味しいのは、このおにぎりなのではないか?きっと誰もがそう感じたはずだ。それなのに、お母さんたちは控えめな方が多いのか、おにぎりを置いたらすぐ立ち去ろうとする。そこで、私はすかさず待ったをかける。ここに集った誰もが、世界一のおにぎりでおもてなしをしてくれたお母さんたちと、もっと会話をしたいはずだ。初めて訪ねたこの里山が、どんな土地で、どんな生活で、どんな風習があるのか、どうしてこんなにお米が美味しいのか。地元の方が愛する美しい景色はどこにあるか。ここに暮らす人でなければ分からないことを、たくさん聞きたい。お母さんたちにとっての「当たり前」が、お客さんには「特別なこと」なのだ。


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