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悠久の風が吹く…石見銀山遺跡
神保 伸子
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 山陰を訪れたことのなかった私は、日本海を見ながら列車の旅をしてみたかった。
 旅行社に出向くと、
 「それならば、島根県の石見銀山遺跡をお奨めします」
 名前は聞いている、しかし、なにがあるのだろう。
 「現在、世界遺産に名乗りをあげていまして・・・」
 そして宿は、最寄の温泉宿、温泉津温泉をすすめられた。たぶん鄙びた宿であろう。それでますます、行きたくなった。誰でも知っている、誰もが行きそうなところではなく、今、脚光を浴びつつある、途上にある地というのが、興味をそそった。私は、決めた。
 「そこに行きます」

 山陰線の『温泉津温泉』は普通列車しか止まらない小さな駅だった。駅前には、駅舎とは対照的に大きな看板が立っていた。『石見銀山はこちらから』と、とりたてて強調している看板だった。
 小さな入り江の温泉津港から少し入った路地の両側に、長屋風の温泉宿が建ち並んでいる。二十軒ほどの小所帯だ。建物は一様に木造二階建てで、木枠のガラス窓がこちらを向いている。ガラスは波打ち、きれいに磨かれている。宿に挟まれるように駄菓子屋あり、雑貨屋ありだ。路地では二組の温泉客とすれ違ったくらいで辺りは静まっている。私の靴音が狭い路地に響いている。その中の一軒、私が予約していた宿に着いた。
 宿は間口から見るより広く、何十人かを収容できそうだ。入ったとたんに、人声でにぎやかだ。玄関には団体客歓迎の看板が掲げられ、大勢の履物が並んでいた。
 宿の人はうれしそうに、そして忙しそうに私を出迎えてくれた。なにより路地に反して宿内部が、活気付いていることが、私をほっとさせた。 担当の仲居さんが部屋にやってきた。飾り気のない土地の人のようだが、きびきびしていて気持ちがいい。
  「お客さんも銀山に行かれるのですよね」
  「はい、そのつもりで来ました」
 はいはい、待ってましたと言わんばかりに、にこにこしている。
 「まあ、銀山は混んでいましてね・・・」
 と、自慢そうである。
 「明日、行かれるんですよね、当主に行き方など聞いておきますね」
 と仲居さん。
 「ところでそんなに混んでいるのですか、お宅は行ったことあるんですか」
 私は聞いてみた。
 「いやあ、ありませんよ」
 仲居さんは、人ごとのように言う。にわかに賑わいだし、人出が足りなくなり近場の人が借り出された感じだ。そういえば、宿は一昔前の木造、それに最近、水まわりなどきれいに気持ちよく過ごせるように手が加わったようだ。
 夕食の膳は、日本海の鯛、鯛の奉書焼きが据えられた。わあ、旨そうと箸を着けた時、忙しそうに当主が入ってきた。
 私の日程に合わせて、細かく列車、バスの時刻などを書いたメモを用意してくれていた。
 「なにしろ銀山は混んでいましてね」
 やはり同じことを言っている。
 「山道に入る所まではいいのですが、そこからは、道が狭いもので、小型のシャトルバスに乗り換えるんですがそれが混んでいてね、お年寄りの方でも立ち席だそうで・・・」
 その顔は汗で輝いている。
 「ですから、早朝がいいですよ。ここらの電車の本数は少ないですし、その先のバスの連絡も難しいですので、いっそタクシーで行かれたらいかがでしょう・・・」
 地図でみるかぎりでも、宿から銀山までちょっとした距離がありそうだ。
私がその日のうちに、出雲空港から羽田に帰ることも考慮しての提案だった。
   「銀山は世界遺産になんとしても登録されますからね。そうなったら、もっと混みますから、お客さんは良い時にお越しになったと思いますよ」
 当主は登録を当然のこととして意気込んでいた。そうだ、それがこの温泉街全体の元気に繋がっているのだと思った。
 窓から見える覆いかぶさるように突き出た裏山も、脚光を浴びだした昨今の町並みに、一層濃い緑を注いでいるように見えた。
 入り江に程近い温泉街。あとから聞いた話では、ここは、重要伝統的建造物保存地区に指定されている由緒ある場所。寅さんシリーズの舞台にも使われたとのこと。寅さんが四角いかばんを持って現われる姿が良く似合いそうだ。その佇まいに改めて納得した。
 また温泉津湾の沖泊は、十六世紀後半、銀の輸送に、また石見銀山への物資補給として大いに機能した港でもある。


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